かつては滑る難所「金谷坂」はなぜパワースポットに?…東海道五十三次・静岡の宿場町新名物
東海道五十三次の県内にある地点ごとに注目のスポットなどを取り上げる企画(随時掲載)の今回は、県内14番目の「金谷宿」。かつて旅人が滑ってばかりだった難所「金谷坂」は、いまや「すべらず地蔵」が置かれ、合格祈願の地となっている。なぜ県有数のパワースポットになったのか、現地で考えてみた。 金谷宿から牧之原に至る金谷坂の中腹に、「すべらず地蔵」という地蔵尊がある。1993年に建立された合格祈願スポット。御利益は他にも健康長寿や、商売繁盛など多岐にわたる。「すべらず地蔵尊奉賛会」の植野修さん(85)は「商売的な気持ちはなく、街を盛り上げたい思いが、ほほえましいスポット作りにつながった」とうなずいた。 合格鉛筆(2本350円)、お守り(350円)、絵馬(500円)などが販売され、毎年1月には「すべらず地蔵尊祈願祭」が行われる。植野さんは「おさい銭からグッズを作っている。ほぼ原価で提供し、利益は整備やお供え物に充てている。ギリギリの状態だけど、人に喜んでもらえるのが最大の“報酬”」と明かした。 江戸時代の金谷坂は雨が降ると、ぬかるむ粘土質の土が露出。東海道制定の際、多くの旅人が苦しむ難所を歩きやすくするため、幕府が敷石を並べた。のちに舗装され、石畳の箇所は30メートルに短縮。1985年に島田市の指定文化財に認定された後、91年に町おこし事業「町民一人一石運動」に約600人が参加して430メートルの石畳が復元。93年には「すべらない石・ぬかるみに足を取られない坂道」にあやかって、寄贈された地蔵尊に名付けられた。 記者も坂道を上った。両拳よりも大きく、苔が生え始めた石が敷き詰められている。隙間に足が入らないように慎重に進んだ。何事においても滑らないためには、用心深い姿勢が必要だと感じた。固い表情の記者を見かねて、植野さんは「ハート型の石を見つける楽しさもあるよ」と笑顔で伝えてくれた。 植野さんは他に、地域のメンバーによる「チームおもしろ五和駅」に所属。2020年に大井川鉄道の無人駅「五和駅」をもじって、「合格駅」改称に一役買った。また、同時期に同鉄道の新駅「門出駅」が誕生。街の活性化が地域のコミュニケーションにつながっているという。「面白い取り組みをして、人を呼び込みたい」。誰かを楽しませたいという地元住民の思いが、開運を招いていると実感した。(伊藤 明日香) ◆金谷宿 東海道24番目の宿場町。大井川対岸の島田宿とともに川越を控えた宿場として発展。次地点の日坂宿との間には「小夜の中山峠」があり、「夜泣き石」伝説が残る。 ◆すべらず地蔵 住所は島田市金谷坂町(旧東海道石畳)中腹。JR、大井川鉄道の金谷駅から徒歩約15分。
報知新聞社