「平和主義」コスタリカに本当に軍隊はないのか?
日本の「集団的自衛権」との違い
このように、コスタリカは米軍と歩調を合わせることもありますが、ここで注意すべきは、これが日本で関心を集めている「集団的自衛権」の問題とは同じでないことです。 ドミニカ内戦への介入は、確かに米国政府の意向が強く働いたものでしたが、アメリカ大陸各国が加盟するOASとしての「集団安全保障」に基づくものでした。国連でも採用されている集団安全保障は、国際機関、地域機関のメンバー国同士の間で、国境侵犯などが発生した場合に軍事的に対応することを事前に取り決めておくシステムです。その実際の運用には政治的な影響が働きがちですが、少なくとも地理的範囲は明確で、国際機関としての合意に基づくものです。これは、一般的に地理的な制約がなく、二国間の同盟関係に基づく集団的自衛権とは別の概念です。コスタリカは米国と同盟関係にはありません。 また、コスタリカへの米軍の駐留に対して、野党だけでなく、反米的なボリビア政府などからも批判が集まっていますが、現代の麻薬カルテルは重武装化しており、中南米諸国でのその取り締まりは、軍隊と警察の双方によるのが一般的です。少なくとも、コスタリカと米軍のそれは、特定の主権国家を念頭に置いた、伝統的な安全保障協力ではありません。 こうしてみたとき、日本の安全保障法制の問題を考えるとき、コスタリカの事例をそのまま用いることはできないといえるでしょう。
------------------------------------------------------ ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬社)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo! ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト