「平和主義」コスタリカに本当に軍隊はないのか?
「警察」による治安維持
常設軍が廃止されたコスタリカでは、約1万人の規模をもつ警察が国境警備や海上監視なども行います。その中には、暴徒鎮圧などの中心となる4500人規模の警備隊もあります。また、通常の警察と異なり、諜報活動を担う諜報安全省の監督下にある特別強襲隊(UEI)と呼ばれる部隊は、自動小銃などの装備を備えており、これは米軍が主催する中南米諸国の合同軍事演習にも参加しています。 このうちUEIは、2010年にニカラグアとの間で、サンファン川流域のカレロ島をめぐる領有権問題が悪化した際、この地域で警備に当たりました。これに対して、ニカラグアは「コスタリカが軍を展開している」と非難し、緊張が高まりましたが、この問題は2011年に国際司法裁判所に付託され、2015年5月現在、審理が続いています。 その一方で、コスタリカ政府は2011年1月、警察の中に国境警備を専門とする特別部隊を新設することを発表。高速艇などを配備することで、常設軍の廃止以来、第二次世界大戦当時の巡視艇などに頼っていた沿岸警備を強化する方針が打ち出されたのです。 これらにより、2014年のコスタリカの治安関連予算は4億2000万ドルと、ニカラグアの軍事予算8500万ドルを上回ります(ミリタリー・バランス)。戦闘機などの高性能兵器を持たず、公式には軍隊がないものの、コスタリカの非武装はグレーなものといえるでしょう。
「中立宣言」と米国との関係
1983年、コスタリカ政府は「中立宣言」を発表しました。当時、中南米諸国は米ソの草刈り場になっており、この中立宣言は東西冷戦から距離を置くことを打ち出したものでした。 その一方で、「常に民主主義の側につく」ことを宣言しているため、コスタリカの中立主義は実質的に米国寄りのスタンスを生むことにもなりました。2003年のイラク戦争をコスタリカ政府が支持したことは、その典型です。 これに加えて、コスタリカは「アメリカ大陸の安定」のための協力は否定していないので、米軍と協力することも稀ではありません。1965年に発生したドミニカ内戦では、米州機構(OAS)の平和維持部隊に警察官を送っていますが、この介入はドミニカが「第二のキューバ」になることを恐れた米国の主導によるものでした。さらに、中南米で活動が活発化し、凶悪化する麻薬カルテルを取り締まるため、コスタリカ政府は米軍の駐留を認め、2010年7月には米海軍の艦船がコスタリカに入港しています。