見た目にはわからない。だから傷つくことも多かった。ロキタンスキー症候群当事者・Mayuさんの思い
誰かと同じでいることに安心感を得たり、“自分と違う誰か”に優しさが持てなかったり。誰もがなんとなく生きづらさを感じている現代社会で、自分らしく生きるには? 自分自身を信じ認めて自分らしく人生を歩んでいる方々に「これまでのこと・今のこと・これからのこと」を伺うインタビュー連載「人と違う、私を生きる」。 今回お話をお伺いしたMayuさんは、生まれつき子宮や腟がない先天性疾患、ロキタンスキー症候群の当事者としてSNSなどで経験を発信。同じ病を抱える方々に向けたピアサポートを行っています。自分の障がいを受け入れ、自己受容できたきっかけがヨガだったというMayuさん。インタビュー後編では、ありのままの自分を受け入れるために必要なことなど、自己受容後の変化をお聞きしました。 〈写真〉見た目にはわからない。だから傷つくことも多かった。ロキタンスキー症候群当事者・Mayuさんの思い ■お付き合いするたびについてくるカミングアウト ――インタビュー前編では、ヨガとの出会いがロキタンスキー症候群の当事者である自分を受け入れることができたきっかけだったとお話しいただきました。「病気ではなく個性だ」と思えるようになったことで、恋愛観にも変化はありましたか。 Mayuさん:恋愛観はかなり変わりました。20代のころは、体の障害を受け入れてくれる人がいてくれたらありがたい、みたいな。ちょっと自分を卑下したようなスタンスでお付き合いをしてきていましたけど、今はもう私は私のままで大丈夫、と思えているので。自分の体のことも個性だし、自分の体についても怖がらずに相手に伝えることができる。そこは昔と変わったところかなと思います。 ――ちょっと踏み込んだお話になってしまいますが、お付き合いするときには毎回病気のことをお相手にお話されていたのでしょうか。 Mayuさん:そうですね。造膣手術をする前からお付き合いしていた方がいましたが、どの彼にも付き合う前に自分の体のことを伝えていました。手術後も一般的な女性のような膣じゃないから、同じような体感で性交渉ができるのか分からなかったし、将来的に結婚するなら子どもができないことも伝えなくちゃいけない。拒絶されたらどうしよう。それで傷つくのは怖い。そういう不安をいくつも持っていたので、付き合う前。そのタイミングなら、傷ついたとしても早く終わらせられるじゃないですか。そのくらい拒絶されるのが怖かったので、すぐカミングアウトしていました。 でも、私が出会った男性たちはみんな大きく受け止めてくれる人たちで、それでも大丈夫だよ、と言ってお付き合いしてくれる方がほとんど。ですが、結婚の話になったときに「家族も関わってくるから、ちょっと考えたい」と言われたこともありました。そりゃそうだよね、と思いつつ、それで関係が終わるかもしれない、というのはすごく怖かったし、ショックでしたね。大切な人に拒絶される、受け入れてもらえない、というのはこんなに怖いことなのか、と改めて思いました。 振り返ると、その毎回カミングアウトしなくちゃいけない、ということも意外とストレスだったなと。私、恋愛するのが好きだったんですよ。だからこそ、いちいち誰かを好きになったり、好きだと言われたりする度にカミングアウトがついてくることに葛藤を感じていたように思います。今もカミングアウトがついてまわる、というのは変わらないし、そこで拒絶されたら普通に傷つくと思うけど、そんなに重く受け止めなくてもいいのかな、と思えるようになったので、すごく気楽です。 ■疾患のことを話せる場所を作りたい ――SNSで発信を始めるなど、ピアサポートを行うようになったきっかけを教えていただけますか。 Mayuさん:ロキタンスキー症候群の自分を受け入れられるようになったとき、頭のなかの霧が晴れたような感じがしたんですね。ほかの当事者の方にもこの感覚、「私たちは大丈夫なんだよ」と伝えたいなと思ったのが始まりでした。 あと、病気のことを調べていた20代後半のころかな。当事者の会を見つけたことがありました。でも、当時の私はものすごくとがっていて(笑)。「カミングアウトして拒絶されても、つぶれないように強く生きなきゃ」と思っていたんですね。 それこそ周りが出産し始める年齢で「おめでとう」とは言えるけど、次に私が言われることはない。でも、それでいちいち傷ついて潰れていたら生きていくのが辛すぎるから、強がって鎧を着ていたんですね。本当はしゃがみこんで動けない状態だったのに「強い私でいなくちゃ」と突き進んでいたから、そういう当事者の会を見つけても頼ることができなかったんです。 でも、自己受容できるようになった今振り返ってみると、そのどうしようもないときに「助けて」と言えたらまた違ったのかなと。当時と違って今はSNSで簡単に連絡が取ることができる時代だし、疾患について知れる場所、悩みを話せる場所を作りたいと思って、発信を始めました。 ――発信を始めてからの反響はいかがですか。 Mayuさん:当事者の方から「救われました」という言葉をいただいたり、相談をされたり。ピアサポートするなかで、これはシェアした方がいいかなと思うことだけを話しているので、そんなに大きなことはしていないのですが「相談できてよかった」と言ってもらえるとホッとしますね。 当事者だけでなく、親御さんやパートナーさんからもご連絡をいただくので、サポートも大切だなと感じています。今後も、お声をかけていただくことがあれば、丁寧に関わっていければと思います。 ■ちょっとした一言に傷つくことも多かった ――見た目には分からないロキタンスキー症候群。生活するうえで、今困っていらっしゃることはありますか。 Mayuさん:今、ロキタンスキー症候群に対して困っていることはないですね。それこそ20代のときは「ナプキン持ってる?」とか。そういう話についていけなくて、悲しい思いをしたことがありました。別に「持ってないよ」と言えばいいんですけど、そのときはすごく重たく感じていましたね。 あと、結婚していたときは周りからの「早く孫を見せてあげなよ」という言葉とか。クリニックを受診したときに聞かれる「最後の生理はいつですか」の質問も、生理がある女性が圧倒的に多いのは分かっているんですけど、ふとしたことに傷つくこともありました。 ――病気がなかったとしても「子どもはまだ?」という言葉には傷つく、という人も多いですよね。 Mayuさん:そうですよね。そういう相手の言葉に怒りを感じていたのって、根底には「私を傷つけないでほしい」というエゴが隠れていたんじゃないかなと思います。 今は、みんながみんな私の体の事情を知っているわけじゃないし、「子どもは?」と言ってくる人たちも、別に私を傷つけようとしているわけじゃない。結婚=子どもが当たり前だという考え方を持っているだけ。だとしたら、私が傷つく必要はないんじゃないかなと思えるようになったので、だいぶ気にならなくなりました。 この間、当事者の方と話していて思ったんですけど、やっぱり当たり前とか普通とか。その概念って世の中にはびこっているけど、もうそういう考えは少しずつ手放していった方が楽になれるのかなと。性的な思考も体の作り方も考え方も、これが当たり前というのはないじゃないですか。すべてグラデーション。そういうことを知る機会が増えていけば、認識を広げていくきっかけになるのかな、と。そういう認識の人が増えれば、マイノリティーの人たちも生きやすくなるのかなと思います。でも一番は、誰がどういう価値観を持っていたとしても、矢印は自分に向けて、自分の在り方に目を向けることのほうが大切だと思っています。マイノリティーだったとしても、そこに良いとか悪いとか決めているのは自分自身だから。 ――ありのままの自分を受け入れたり、認めたりするために必要なことはどんなことだと考えていらっしゃいますか。 Mayuさん:違う価値観に触れてみることかな、と思います。私の場合はヨガでしたけど、足りないとか、十分じゃないとか、それは自分の頭で決めつけていることだから、そうじゃないんだという気づきには、新しい知識が必要なのかなと。新しい場所に行ったり、人に会ったり。それは一つ、大きなきっかけになると思います。悩んでつらいとき、どうしようもないのは痛いくらいわかるんです。でもそれは考え方を変えた方が楽になる、というサインなのではないでしょうか。 体に障害を持っていると「ありのままの自分でいいんだよ」と言われるのが、すごく助けになりますけど、だからと言って何も変わらなくてもいい、というわけでもないのかなと。自分のことを受け入れられなかったとしても、その状況が苦しければ、リラックスすることとか、緊張している自分を緩めることで自分を助けることはできると思うし、その時の状況で自分にとって必要なことを重ねる先で自己受容につながっていくのかなと思います。自分に「大丈夫だよ」と心から言ってあげられること。それはずっと簡単なことではなかったのですが、誰に言われるよりも一番パワーのある言葉であったことを、私自身実感しています。 ――お話していると、Mayuさんの言葉に勇気づけられる人も多いんじゃないかなと感じます。 Mayuさん:そう思ってくれる人がひとりでもいたらうれしいですね。今後も、SNSを通したピアサポートを大切に続けていきたいです。今ロキタンスキー症候群のことやそのなかでの気づきなどをnoteにまとめ始めているんですけど、将来的にはそれを当事者やその周りの方に「あなたのままで大丈夫だよ」ということを伝えられるような1冊の本にしたい、という思いも持っています。ロキタンスキー症候群は相談しづらい病気でもあるので、私のSNSが気軽に話せるルームメイトみたいな存在でいられたらいいなとも思っています。 インタビュー・文/吉田光枝
ヨガジャーナルオンライン編集部