メーカーズシャツ鎌倉の「オックスフォードボタンダウンシャツ」に隠された「こだわり」のヒミツ
あのロングセラー商品はどのようにして生まれ、どのようにヒットをつづけてきたのか。その道のりをたどる「ロングセラー物語」。今回は、発売から31年となる、メーカーズシャツ鎌倉の「オックスフォードボタンダウンシャツ」にスポットを当てる。現在のブランド担当者が商品の歴史と今を語る。 〔撮影:西崎進也〕 貞末哲兵さん さだすえ・てっぺい/'77年、神奈川県生まれ。セレクトショップの販売員を経て、イタリアのボローニャへ留学。ミラノのデザイン事務所での勤務後、入社。'20年より取締役副社長。
こだわりの品質は、日本の工場でしかできない
アパレル会社のVANにいた創業者である父母が'93年、「世界で活躍するビジネスパーソンをシャツで応援する」という社是を掲げて立ち上げたのが、メーカーズシャツ鎌倉でした。 とりわけ父がこだわっていたのが、自分が買いたい値段でシャツを売りたいという強烈な思い。そこで当時4900円という値段を設定したんです。 工場と直接取引をするといっても、商品原価は約7割。利益が出るまでにはずいぶん時間がかかりましたが、「この値段でこの品質のシャツが買えるのか」という驚きが支持を広げたのだと思います。 このとき、最初の商品になったのが、オックスフォードボタンダウンシャツでした。アメリカのブルックス ブラザーズライクのアイビーっぽいシャツをVANが作って大ヒットさせていたんですが、そのDNAを引き継いだシャツです。 父がよく言っていたのは、水陸両用。襟の収まりがよく、カジュアルでもビジネスシーンでも、男性を上品に仕立て上げることができるシャツ。もともとは、ポロ競技を行うときに、シャツの襟が邪魔になるのでボタンで留めた、というのがルーツだそうです。 大きな特色は、品質に徹底的にこだわっていることです。例えば、襟は接着芯ではなくフラシ芯が基本。接着していないので硬くならず、着心地がソフトになる。 また、ミシン目は3センチに21針が基本。かなり細かいんですね。ほつれにくくなるだけでなく、これが粗いと上品に見えない。 内側も、巻き伏せ本縫いをしています。脇の縫い目をただ縫うだけのシャツもありますが、これでは生地のギザギザがそのまま残ってしまう。だから、一度縫ってから折ってもう一度、縫っているんです。表裏にあまり違いがないだけでなく、シャツ全体の雰囲気がこれで変わってきます。 ボタンは天然の高瀬貝を使用。プラスチックだとどうしても安っぽくなります。ボタンは実は、とても大事なアクセントなんです。 襟のロールをふわっとさせたり、立体的に縫製していくにも、精緻な設計図と縫製技術の両方が求められます。これはやはり、日本の工場でしかできない。海外で作ってもいいのでは、と考えたこともありましたが、やはりいいものがなかなかできないんです。 加えてパターン技術や縫製技術は進化していきますし、トレンドも変わる。襟の開きの角度など、ミリ単位で微妙に変化しています。5年も経つと、大きく違ってくるんです。