中国、新興サービス産業に期待 ネット通販やローン利用で経済構造に変化
中国産業発展のカギとなるのは、新興サービス産業
スマホを使ったサービスでは、タクシーの配車アプリを運営する「滴滴出行」が短期間に全国に事業を展開している。この会社は程維という人が12年に北京で創業し、米配車アプリのウーバーと提携し、中国の360都市で事業展開しており、1日のタクシー配車件数は300万に上る。タクシーの需要が増加する中で交通渋滞が日常化する中国の都市で、顧客の待ち時間短縮とタクシー運転手にとっても効率的な配車を可能にして、急速に普及している。 ネット通販、スマホ決済、消費者ローン、配車アプリは皆、ヒト、モノ、カネの移動が活発になっていることを商機として、ITを活用したビジネスである。アリババや滴滴出行はともに民間の個人が起こした企業である。習近平総書記・李克強首相の指導部は、「大衆創業、万衆創新」というスローガンを掲げている。誰もが起業することができ、誰もがイノベーション(革新)を起こすことができる、という意味である。中国で盛んになっている新たなビジネスは、確かに、このスローガンのもとで進められている行政の許認可削減によって起業がしやすくなっている面もあるだろう。しかし、主役は商機をうまくつかみ、ITをうまく応用してビジネスモデルを構築している起業家たちである。 中国では、鉄鋼などの重厚長大産業が過剰生産能力を抱えて苦戦している。その一方で新興のサービス産業は消費者のニーズを捉えて、今後も成長が見込める。 70年代末に改革開放に踏み切るまで計画経済が続いた中国では、長い間、サービス産業を発展させるという発想がなかった。改革開放の初期も、モノの生産を拡大することが優先され、サービス産業は後回しにされてきた。しかし、01年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟すると、サービス産業は外資にも開放され、日本や欧米のスーパーやコンビニが進出するようになり、中国も本格的なサービス産業の発展期を迎えた。こうした経緯から、16年の国内総生産(GDP)に占める第3次産業の比率は50.5%と、やっと半分を超えたところであり、日米欧など先進国の7~8割に比べて低い。このことは、中国のサービス産業が今後伸びる余地が大きいことを示している。活発な起業が続いていけば、中国の産業の姿が変わっていく可能性もある。 【連載】中国経済の実態<リアル>(日本経済研究センター主任研究員 室井秀太郎) 著者の近著紹介:『中国経済を読み解く 誤解しないための8つの章』文眞堂 2017年1月発行 定価1600円+税