中国、新興サービス産業に期待 ネット通販やローン利用で経済構造に変化
変わる中国の消費行動
ネット通販が便利な点は、店舗に行かなくても商品を選べて届けてもらえる上に、支払いは口座からの引き落としで現金を用意する必要がないことである。 中国では、スマホを使った決済がネット通販以外でも広まっている。若い人たちが集まって会食すれば、食事が終わると皆がスマホを取り出して会計を済ませる。現金を持ち歩く必要がないし、簡単に決済が済むため、スマホによる決済は飲食店ばかりでなく、地方も含めた小規模な商店にまで広まっている。アリババが運営する決済アプリの「支付宝」はユーザーが3億を超えている。 若い人のお金の使い方の変化は決済だけではない。若い女性らは、お金を借りて好きな化粧品などを購入するようになっている。日本でいう消費者ローンである。中国では「小額貸款」と呼ばれる。消費者はATM(現金自動預け払い機)の前で、スマホを操作して融資を申し込む。ローンを扱う「小額貸款公司」では短時間で審査を済ませ、すぐに目の前のATMで現金が支払われる。消費者にとっては、店舗に行かず、面倒な書類などを記入することもなく、手軽にお金を借りることができる。 このような仕組みを可能にしているのは、「小額貸款公司」が顧客のビッグデータを活用しているからである。公司の方では、過去の顧客の借り入れと返済のデータを瞬時に分析して、短時間で審査ができる。ビッグデータを使うことで、貸し倒れリスクも抑えることができる。IT(情報技術)を活用した金融サービスである「フィンテック」で、中国の「小額貸款公司」は先端を行っている。 「小額貸款」を使う若い世代の親たちは、借金して消費するということはあり得なかった。そもそも、消費者ローンというものがなかった。90年代に国有企業改革で住宅が個人で購入するものになってから住宅ローンが生まれ、2000年代以降、自家用車が急速に普及すると自動車ローンが誕生した。しかし、小口の資金を消費者向けに貸し出す制度はなかった。しかも、若い人たちの親たちの時代は、長くモノ不足が続き、ぜいたくな商品も出回っていなかった。だから、消費は収入の範囲内で済ませ、中国の貯蓄率は高かった。高い貯蓄率が投資に回る原資を保証して、高度経済成長を支えてきた。 現在は商品が豊富になり、化粧品や高級ブランドの宝飾品などぜいたく品も、お金さえあれば手に入る。若い世代は、月給の範囲を超えていても、欲しいものがあればお金を借りてまず手に入れ、後で返済すればいいという意識を持っている。 こうした消費行動は米国に似てきている。クレジットカードが普及している米国では、借金をして消費することが当たり前になっている。米国は自国の通貨であるドルが基軸通貨になっているため、国としてお金が足りなくなれば、ドルを刷って穴埋めする。一方、中国には高い貯蓄率で溜め込まれたお金がある。米国が足りないお金を埋めるために発行する米国債を、中国が溜め込んだお金で買って支える。米国人の借金を中国人の貯蓄が支える構図である。 しかし、中国の若い人たちが「小額貸款」を利用するようになってきたことは、長期的に見ると、中国経済の構造を変える可能性があるだけでなく、米中のお金をめぐる構図も変わってくるかもしれない。中央銀行である中国人民銀行によると、「小額貸款公司」は16年末に全国で8673あり、貸出総額は9273億元である。まだ貸出総額は金融機関全体の貸出額の1%弱にとどまっている。