[バイク乗りには意外と快適?!] 5速MTの軽トラ「スズキ スーパーキャリイ Xリミテッド」をトランポ&ファミリーカーに使ってみた
アラフィフ悶絶のルックスと走行フィール
東京・新橋のスズキ東京支店で対面したXリミテッドは予想以上にカッコよかった。凛々しくブラックアウトされたLEDヘッドライトやラジエーターグリル、フォグランプベゼルなどが広報車の「モスグレーメタリック」という車体色にマッチしていてとても今っぽい。しかし、ボディサイドのデカールには昭和チックなビス留め風デザイン処理が施されており、オヤジを悶絶させる。 加えてスーパーキャリイ自体のたたずまいがいい。キャビンを延長し、居住スペースを拡大したことでお仕事感が薄れ、パーソナルユース感が強まったように見えるのは気のせいではないだろう。結果生まれたやや頭でっかちなルックスはなんだか愛嬌がある。 室内空間は当然ながら普通の軽トラより格段に広い。キャビン延長で生まれたシート後方スペースはもちろん、ハイルーフ化で頭上にも余裕があり、軽トラにありがちな狭苦しさがないのだ。カタログにはシートをガバリと倒しくつろぐ様子が掲載されているが、たしかにそんなふうに使いたくなる居心地のよさがある。この余裕はロングドライブにもプラスのはず。働くクルマらしい、実用性を優先した広い視界も気持ちいい。 走り出せば意外なほどの静粛性と乗り心地の良さに驚かされる。軽トラってエンジンは常時ギャンギャン唸り、積載対応の硬い足まわりで跳ね回るように走る印象があったのだけど、Xリミテッドはアイドリング領域では無音と言えるほど静かだし、路面の突き上げもガツガツ来ず、角が丸い印象がある。新橋から編集部のある上野を目指し、内堀通りを走るXリミテッドはなかなかに快適だ。 とはいえ快適なシティコミューターと言えるのは60km/hぐらいまでで、速度が上がるほど「やっぱり軽トラだねぇ」という印象にはなってくる。50psを6200rpmで発揮する660ccの3気筒エンジンは加速もそれなりなので、キビキビ走るにはアクセルを踏み込む必要があるし、登り坂では積極的なシフトダウンも要求される。 それを“面倒くせぇ”と思うか“チョー楽しい!!”と感じるかが軽トラをパーソナルユースする分水嶺になるだろうが、5速MTのシフトフィールはお世辞にも”カチカチ節度よくキマる”類ではないし、クラッチも繋がりにやや唐突感がある。軽トラという成り立ちからすれば当然だが、荒っぽい感じは否めない。 しかし、そんな細けぇこたぁいいじゃねえか。5速MTを駆使し3気筒の高回転サウンドを響かせて激走していると、音や振動、操作に対する挙動などすべてがダイレクトに身体に伝わってきて“オレ、クルマを運転してるぜぇ~!”という原始的な楽しさが爆発する。ベタ踏みしても大したスピードが出ないのがまたいい。バイクに例えればカワサキ・ニンジャZX-25Rの世界観にも近い。 このワイルドさは今となってはたいへん新鮮だが、アラフィフ筆者としては若かりし頃に散々乗り回した、激安ポンコツのスポーツカーにも通じるフンイキを感じてしまった。し、視界が滲むぜ。乱視や老眼のせいだけじゃなさそうだぜ。自動運転すら一般化している現代のクルマ社会で、あえて軽トラを選ぶ理由はここにあるのではないか。オッサンの思い出リプレイ装置である。 ちなみに1速でレブリミッターまで引っ張ると30km/h弱。同様に2速は約50km/hで、3速で80km/hに届く。やはりギヤ比はショート気味(4輪もこの表現でいいのかな?)で、街乗りなら2速発進が適切かもしれない。余談ながら3速の全開加速で見せる60~80km/hあたりのレスポンスと、ビィィーンと響くエンジン音は笑っちゃうほどレーシーだ。 それでいてデュアルカメラ式の衝突軽減ブレーキは標準装備だし、マニュアル乗りてぇと吠えつつ運転自体は数年ぶりという身には、坂道発進を助けてくれるヒルホールドアシストがなんともありがたい。さすがに自動追従クルーズコントロールまではないけれど、ワイルドさと近代装備のバランスがどちらかに偏っていないのが好ましい。街乗りでそのあたりを確認したところで、NSRと奥様を乗せて箱根を目指してみることにする。 試乗車は4WD低速モードを持つパートタイム4WD車。2WDと4WD高速モードの切り替えは80km/h以下なら走行中でも可能。4WDにすると少しハンドルが重くなる(気がしました)。4WDの5MT車はデフロックを、それ以外はぬかるみ脱出アシスト機能を持つ。