追悼・大山のぶ代さん ドラえもんを通じて日本中に届けた愛、友情、絆
Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね【第1211回】 シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。 「偉大な声優が、またひとり旅立ってしまった……」 声優・俳優として活躍した大山のぶ代さんが逝去されたニュースを耳にした時、こんな風に思った方も多いのではないでしょうか。 1956年に俳優デビュー。1979年には、アニメ「ドラえもん」の主人公・ドラえもんの声を担当。以降、2005年に勇退するまで26年にわたりドラえもんを演じ続け、自他ともに認める代表作となりました。 訃報を受けてインターネット上に書き込まれたファンの声を見ると、今でも「ドラえもん=大山のぶ代」と脳内に焼き付けられている人が、いかに多いことか。もちろん、私もそのひとりです。 そこで今回は、大山のぶ代さんをクローズアップ。大山さんの代名詞とも言えるドラえもんの魅力と、『映画ドラえもん』シリーズの中から八雲ふみねが選ぶ名作3作品をご紹介します。
<strong>愛らしくてエモい「ドラ声」は永遠!</strong>
「こんにちは。ぼく、ドラえもんです。」 茶目っ気たっぷりに自己紹介する、未来からやって来たネコ型ロボット、ドラえもん。アニメシリーズが世代を超えて愛されるようになった大きな要因は、やはり大山のぶ代さんの声の影響力でしょう。 独特のハスキーボイスと愛嬌たっぷりのキャラクタービジュアルが相まって、今では日本のみならず世界中で愛される存在となりました。 大山のぶ代さん演じるドラえもん、通称“のぶドラ”の中で、私が好きな言葉は「のび太く~ん」です。怒ってる時もご機嫌な時も、この一言だけで、のび太への愛情が垣間見えるのが魅力的でした。 それから、「ふふふ」という笑い声。文字で表現するならば、「ふぅ~ふぅ~ふぅ~」といった感じでしょうか。 元々球状のま~るいスタイルなのに、さらに背中を丸くさせて笑う姿があまりにも可愛らしく、キュンキュンしたものです。 冒頭の「こんにちは。ぼく、ドラえもんです」というセリフも笑い声も、大山さんのアドリブから誕生したもの。そのイマジネーションをかき立てる豊かな声の演技が、「ドラえもん」を国民的アニメにまで成長させたと言っても過言ではないでしょう。 そう言えば、「どら声」という言葉があります。 「太くて濁った声」「だみ声」を意味し、どちらかというとあまり良い印象ではない言葉ですが、大山さんの声は「ドラえもん」の「ドラ声」。 ひと声聞けば、すぐにドラえもんと大山さんの姿が目に浮かんできて、なんとも言えない温かい気持ちに包まれてしまう。ある意味、究極の癒しボイスなのかもしれません。 なんでも若い世代の中には、「どら声」という言葉の意味を、「大山のぶ代さんが演じるドラえもんの声=ドラ声」だと勘違いしている人がいるとか、いないとか。 言葉の意味を変えてしまうほど世間に浸透した、大山のぶ代さんの「ドラ声」。私たちの脳裏に刻まれた子どもの頃の思い出と共に、いつまでも鮮やかに生き続けることでしょう。