上昇する米国の教育コスト 私立トップ大学は年間1,300万円
経験重視の入試選考
アメリカでは前述「ニードブラインド入学」が実施される以前の1980年代から、学力を測定するSATやACTのスコアを提出しなくても良いとする「テスト・オプショナル」方式(日本のユニーク入試に類似)が浸透し、人物像を重視した入試が広まりつつあるが、ここでも課外活動での活躍が問われるため同様の格差が懸念されている。 2023年のハーバード大学の研究発表によると、SATのスコアが同等の学生を比較すると、中流家庭の学生よりも所得上位1%の学生がスタンフォード大学やMIT、デューク大学、シカゴ大学などのアイビー・プラス名門校へ入学できる可能性は2倍であることがわかった。 下位20%の所得世帯に属する学生は、2013年のハーバード大学入学生の4.5%、一方で上位20%の所得世帯の学生は67%にもなることが判明しており、収入による入学格差は無視できないほどに鮮明だ。
顕著な差が出る生涯賃金
一方で、名門校を卒業できれば平均を大きく上回る年収が見込めるのも事実だ。通常学位が必須とされる教育や医療現場での就職の機会が広がり、平均より高い賃金の仕事に就ける。 ジョージタウン大学の最近の報告によると、高卒の年収と比較して、準学士(短期大学卒)で49万5,000ドル(約7,700万円)、学士で100万ドル、大学院卒で170万ドル、生涯賃金に差が出ることがわかっている。 なお同報告書からわかったことは、過去10年間のアメリカにおける進学率(学位取得率)の上昇に伴う、生涯賃金の総増加額は14兆2,000億ドルにもなるというアメリカ経済にとってポジティブな内容だけではなかった。 調査では、白人と黒人やヒスパニック系との格差、男女の格差も浮き彫りにした形で、この重大な格差は10年前と何ら変わりがないことが指摘されている。 さらに、同等の学位を取得した成人間でも人種や民族によって格差を生みだしており、成人白人の生涯賃金中央値が200万ドルである一方、黒人の場合170万ドル、ヒスパニック系やアメリカ先住民が150万ドルとなっている。これに、男女間の格差、それに州間での格差も明らかになった。 優秀な学生は、学費の心配をすることなく大学進学の機会が平等に与えられているように見えるアメリカの大学だが、このような格差によって未だ低所得世帯の学生や特定の人種、民族、性別の学生には不利な状況は改善されていない。大学側は入試選考方法の再考が、学生側には将来の賃金を見込んだ自分への最大の投資として高騰する学費を支払う能力が求められているようだ。
文:伊勢本ゆかり/ 編集:岡徳之(Livit)