彼女に「女の子のLINE IDは消して」と言われたら…。男子校ではデートDVや性的同意をどう教えている?
◆デートDVや性的同意はホットなテーマ
存在自体がジェンダー平等に反するかのようにいわれることすらある男子校。圧倒的な進学実績を誇る名門校が多い一方で、男子校を出たばかりの学生たちにはたしかに、女性との距離感がうまくつかめず危なっかしいところがあります。それが男子校のアキレス腱であることは明白です。 そこで、全国すべての男子校に性教育やジェンダー教育に関するアンケート取材を行いました。戸籍上の男子しかいない制約のなかで、むしろそれを生かして、各校が工夫を凝らした教育を行っていることがわかりました。これらの実践を取材して拙著『男子校の性教育2.0』(中公新書ラクレ)としてまとめました。 単なる生殖の教育としてではなく、ジェンダーや人権や性生活のウェルビーイングまでを広く視野に入れる性教育を「包括的性教育」と呼びます。私が男子校で目撃した包括的性教育では、マスターベーション、性器の形や大きさ、緊急避妊薬、コンドーム、ピル、月経、予期せぬ妊娠、性感染症、性的多様性、性的同意、性暴力、不同意性交罪のあたりが共通して扱われていました。 特に2023年7月に不同意性交等罪が定められたこともあり、デートDVや性的同意については共通してホットな話題として語られていました。ホットな話題だけに、専門家の講師や教員のあいだでも表現の仕方に違いが大きいなとも感じました。
◆「正解」を押しつける人権教育は逆効果
ある男子校では、外部講師を招いてデートDVについての講演を行ってもらったところ、あとから生徒たちの不満が噴出したと教えてくれました。 その講師が話してくれたことは、社会的にはおそらく正論だったはずです。しかしまだ恋の経験もない子どもたちをつかまえて、君たちは加害者になる可能性があると脅すのは、教育的コミュニケーションとしては乱暴だったのでしょう。「おまえは泥棒だ」と言って育てれば泥棒に育つという有名な言葉があります。だとすれば「男は暴力的で無責任だ。自覚しろ」と言って育てればどうなるでしょうか。 「大人による『正解』の押しつけを、私は『上からの人権教育』と呼んでいます。良かれと思ってやった教育活動が実は逆効果にもなりうることを、私たちはもっと自覚すべきです」と、その教員は訴えます。 頭のいい生徒たちなら、講演後のアンケートで「たいへん勉強になった」に○をつけ、感想欄には“SDGs”的に正しいことをいともたやすく書けてしまうはずです。でもそれは、せっかく純粋な彼らの内面を本音と建前で区切り、本音を変化しがたいものに固着させてしまう危険性をともないます。 「その意味で、黙って話を聞いてくれる生徒や学校ほど危険です。あれもこれもやってはいけないと規範を押しつけられ、かつ、自分の本音は変わらないという状況だと、ネットなどの匿名の空間にもぐって差別行為を行うひとを育てることになります」と先の教員は警告していました。