彼女に「女の子のLINE IDは消して」と言われたら…。男子校ではデートDVや性的同意をどう教えている?
◆「付き合っている」ってどういう状態!?
その点、ある男子校で見たデートDVについてのケーススタディは見事でした。 付き合っているカノジョから「女の子のLINE IDはぜんぶ消せ」って言われたという状況設定。「ほかの女の子としゃべっているだけで怒られるけど、これが付き合っているってこと?」という相談にどう答えるかと、講師は生徒たちに問いました。 マイクを向けられた生徒の一人は「その男の子がいいならいいけど、僕だったら別れる」と答えました。別の生徒は「うーん、好きだったら、消します」と答えました。 それを受けて講師は「自分が消したいなら消せばいいと思うけど、消したくないなら消す必要はありません。LINE IDを消すかどうかを決めるのは自分自身であって、カノジョに強制されてやることではないです。自分がほかの女の子としゃべりたくてしゃべっているのに、それを怒られるのは違うわけですよね」と説明します。 講師は男子生徒の立場に視点を置いて説明します。立場を入れ替えれば、自分もお付き合いしている相手に対してそのような要求を押しつけてはいけないとわかります。 そもそも「告白→OK→お付き合い」というプロセス自体が世界的には珍しい恋愛習慣です。バブル期前後に一世を風靡(ふうび)した深夜のバラエティ番組のせいで広まった風習ではないかと私は思います。 「付き合っているから……」という形ばかりの既成事実が、セックスをする権利があるように錯覚させたり、セックスを断りにくくする状況をつくってしまったりしているのではないかという気がしてなりません。 性的同意やデートDVを語るのであればそのまえに、「付き合っている」とはどういうことなのかを考える機会を設ける必要があるのではないでしょうか。
◆同意をとっても不同意性交罪に問われる
ある講演会では、質疑応答の時間に「言葉で同意をとっていてもあとからいくらでもひっくり返して不同意性交罪に問えるのだとしたら、男に不利だと思うのですが、僕たちはどうやって自分を守ったらいいのでしょう?」という質問がありました。 「男に不利だと思うのですが」が余計でした。講師の回答は「男性があとから同意がなかったと訴えることもできるわけですから、男が不利ということはまったくありません」で終わってしまいました。それはまったくその通りなのですが、質問者の意図は「同意をとってもあとからひっくり返される可能性があるのだとしたら、どうやって自己防衛すればいいのか」にあったはずです。 むりやりとかどさくさまぎれで性行為におよんでしまうのを防ぐために性的同意という概念はあるのにそれが転じて、あとから客観的に性的同意が証明できない状態で性行為をすること自体が犯罪にあたるかのように一般化されてしまうから、このような質問が生じるのです。いま、同様の不安を抱えている若者は多いのではないでしょうか。 性的同意の概念や不同意性交罪の成立条件について知識として知っておくことは大切だと思いますが、そういった考え方が生まれた文脈の説明もなしに、レイプやどさくさまぎれのセックスをするつもりが少なくとも現時点ではさらさらない中高生に言葉による逐次の同意を必要不可欠なものであるといきなり強調するのは、説明の仕方としてなんだか順序が逆のような気がします。