写真は時代の証明 時代の顔を撮り続けたい ── 写真家・加納典明が語る
アイドル性が光っていた山口百恵さん
──今まで撮ったなかで一番印象に残っている女優さんは? 山口百恵さんですね。彼女は、グラビアもやって歌も歌うし、役者もやっていた。すべてのジャンルにおいて、アイドル(偶像)性が光っていた。じゃあ役者としてすごい演技者だったというと、トップクラスではなかったし、ルックスも超がつく美人でもない。なにかっていうと、例えばカメラの前に立って撮りながら、あとにもさきにもファインダーが曇ったのは彼女を撮影した時が初めてですよ。どう切り取っていいのか、被写体と格闘するというか、そんな状況に僕が興奮して、目から汗というかね(笑)。そういう経験をしたのは、彼女だけですね。 ──ほかの方と何が違うんでしょうか? 要するに、たいてい撮影現場に現れる女優さんやタレントは、枠をはずさないんですよ。イメージゾーンというポーズをはじめ、ヘアメイクだなんだで強くガードする。僕の仕事は、そういうもの取っ払ってなんぼ。じゃなきゃ僕が撮る意味が無い。僕の写真にしなければいけないから、そこが勝負どころ。その点でいえば、百恵さんは被写体にあてのない目つきというか、有名な半開きの唇とか。あれはやっぱり引きこまれましたね。それがなんなんだというと、これは言葉で説明できるような領域じゃないんですよ。気配というか、女々してるわけではないし、エロティシズムなんかではない、それとも違う特別ななにか。 ──最近の女優さんやタレントで言うと誰かいますか? 壇蜜かなあ。あのひともつかみどころがない。超美人ではないし、グラマラスでもないけど、わけわかんないものをもっている。写真家の仕事っていうのは、ある種、どこかで見切ることでもあると僕は思っていて、撮る相手をたぶんこんな女、こんな人間、こういう日常・・・誤解も含めて見切って撮っていく。色々話しているうちに、反応するポイントを感じ取りながら、それを見逃さない。そうしているうちに相手が、地上から浮いちゃっているというか、別の自分になるみたいな感じっていうのかな・・・。そこからが僕の腕の見せ所になってくる。でも、壇蜜や百恵さんは、それにもハマらない。認識しにくいし、見切りにくい。切り撮りにくい。居合い一閃というわけにはいかない。写真は直感勝負ですから出会い頭とか、恋愛もそうだともいますけど直感で大きくありますよね。だから結婚となると直感を外したほうがいいですが(笑)。それはともかく、その辺で言うと最近だと壇蜜かなあ。