「誕生日をこんな風に祝ってもらったことはなかった」若者はなぜ〝九州のトー横〟に集うのか 夜の街で支援活動に同行して分かった「居場所」の大切さ
近くにいた16歳の少女は、両親の離婚の危機を察知し、家に居づらくなって公園に来たと私に明かした。中学生の妹と小学生の弟はまだ幼く、相談しづらい。両親のことは大好きだが、今後のことを考えると気が重くなるという。「家じゃこんなこと誰にも相談できない。今日は聞いてくれてありがとう」 藤野さんはこの日、公園で1時間ほど過ごし、帰路に就いた。若者が置かれた状況はさまざまだ。「家も施設も地獄だという子には、第三の居場所が必要。どんなものにすべきか、ずっと考えている」 ▽長崎、熊本など近隣県からも集まる若者 警固公園に若者が集まり始めたのは、2021年秋ごろ。黒を基調としたダークな雰囲気の「地雷系」と呼ばれるファッションを好む人に、集まろうと呼びかけたSNSの投稿がきっかけとされる。SNS上で「警固界隈」と自称し、定着。その後はファッションに関係なく、長崎や熊本など近隣県からも若者が集まるようになった。
藤野さんがアウトリーチを続けるのは「自分の経験とも重なる部分があるから」。大学卒業後に東京でIT企業に就職し、必死に働いた。しかし、体調を崩して福岡に帰郷。仕事もなく、社会の中に自分の居場所がない不安感が、拭えなかった時期がある。 塾で不登校の生徒に勉強を教え始めた時、生徒たちが塾の教室では柔らかい表情で話をする姿を目の当たりにし、「居場所」の大切さを改めて痛感した。 ▽レンタルスペースで誕生日ケーキ その日暮らしをしている若者が集まっていると聞いた藤野さんは、昨年7月から夜の警固公園に通い始めた。家出や虐待など彼らが抱える事情の多くは家族に起因し、長期間帰宅していないケースもある。おなかをすかせた子も多く、月1回ほどは警固公園近くにレンタルスペースを借り、食事も提供している。多い日には、同時に20人以上が利用することもあるという。 5月末には、誕生日を迎えた子たちを祝うためにホールケーキを用意した。17歳になった少女と一緒に、誕生日ケーキのろうそくを吹き消した少年は「こんな風に祝われたことない」とつぶやいた。少年は大きなスーツケースを一つ持って来ていた。住む場所がなく、自分の荷物を全てこのスーツケースに収めて、友人の家などを転々とする生活を送っていた。