「粉飾」倒産が過去最多更新へ…大胆かつ巧妙な手口がバレる理由は“ささいなボロ”から(小林佳樹/金融ジャーナリスト)
【経済ニュースの核心】 契約先企業の粉飾した決算報告書を銀行に提出して融資金約5000万円を騙し取ったとして、大阪府警は12月5日、詐欺の疑いで、大阪市淀川区の経営コンサルタント会社「エムエスジー」社長の平井登容疑者と、ハウスクリーニング会社「ベンリッチ」社長の山口博巳容疑者を逮捕した。平井容疑者はベンリッチとコンサル契約を結んでおり、粉飾決算の指南役だったとみられている。エムエスジー、ベンリッチとも昨年破産している。 【写真】オリンパス社長が違法薬物で辞任 事実上の“解任”に既視感…13年前にもドロドロの権力争い 2人はベンリッチが債務超過状態に陥っていたにもかかわらず、経営や財務状況に問題がないように見せかけた虚偽の決算報告書を銀行に提出し、融資金を騙し取った疑いが持たれている。 「平井容疑者は都市銀行の出身で、銀行が融資する際の審査ポイントを熟知していた。その経験を悪用し、虚偽の黒字決算書をでっち上げる手法を指南していた」(金融筋)とされる。 元銀行員が粉飾を指南するとは論外だが、ここにきて企業の粉飾が露呈するケースが増えている。2023年には、40~50種類もの偽の決算書を作成し、“世紀の大粉飾”といわれた老舗ベアリング専門商社「堀正工業」の破産事件が注目を集めた。 その粉飾の手口は想像を絶する大胆なもので、「取引銀行それぞれに対し、異なる借入金明細書を作成して融資を受けていました。借入金総額もまちまちで数字もでっち上げでした」(大手信用情報機関幹部)という。「銀行取引数も対外的にはメガバンクなど3~4行と公表していましたが、実際は地銀や信金などを含め約50行の金融機関から融資を受けていた。しかも借入額も当初40億円と説明していましたが、フタを開けてみると350億円もの融資を引っ張っていた」(同)というから驚かされる。 巧妙な粉飾の手口がバレてしまうのはなぜか。そのキッカケは「ささいなことからボロが出るケースも少なくない」(地銀幹部)とされる。例えば融資先企業の周年記念や新規出店のお祝いに銀行が贈った花輪から露呈する場合もあるという。「企業は融資を受ける際、融資申請書に取引している銀行名を記入するのですが、そこに記されていない銀行から花輪が贈られているのでおかしいと思い、当該銀行と情報交換すると、異なる決算内容が提出されていることが判明した」(同)というのだ。競合する銀行間では取引先企業の情報交換が手薄。その穴を利用した粉飾隠しというわけだ。 帝国データバンクの調査によれば、24年1~9月の「粉飾」倒産は前年同期比16件増の74件と、3年連続で前年同期を上回った。24年通年でも年間最多件数(19年84件)を更新する可能性が高い。銀行を騙す悪徳企業は後を絶たない。 (小林佳樹/金融ジャーナリスト)