明確かつ積極的なYES以外は「合意」ではない。性的シーンの撮影で俳優を支える、インティマシー・コーディネーターの役割
日本では2人のみ。「インティマシー・コーディネーター」という職業
インティマシー・コーディネーターという職業があります。 インティマシー・コーディネーターとは、映画やドラマなどの制作現場において、性的描写やヌードなど体の露出があるシーンの撮影をめぐって、俳優の同意のもと、安心して演じられる環境を整え、それと同時に監督など制作サイドの演出を最大限実現できるようにサポートする職業です。 ――『インティマシー・コーディネーター -- 正義の味方じゃないけれど』 西山ももこ著 論創社 日本ではまだ2人(2023年12月時点)しかいないインティマシー・コーディネーターですが、近年注目を集め、「2022ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされました。「#MeToo」運動がきっかけで生まれ、世界的に需要が高まった俳優の権利を守る重要な職業ですが、まだまだ知らない人も多く、聞いても「え、そんな仕事あるの(笑)」というような反応があるのも事実です。話題になったドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS系)にインティマシー・コーディネーターが登場した際は、この職業を茶化すような演出があり、批判の声があがりました。 インティマシー・コーディネーターとはどんな職業なのか、実際にインティマシー・コーディネーターとして活動している西山ももこさんの著書『インティマシー・コーディネーター -- 正義の味方じゃないけれど』(論創社)から見ていきます。
「できるかどうか」ではなく「やりたいかどうか」
インティマシー・コーディネーターは、該当シーン以外も含む台本のすべてに目を通し、内容を把握します。監督へ意図をヒアリングして、台本に書かれている内容を具体化させます。例えば「キスシーン」とだけあっても、軽いキスなのか、激しいキスなのかわかりません。そして、演じる役者の意思を確認します。 そのシーンを演じる役者さんたちに監督の意図やイメージを伝え、「どう思うか」とか「それを演じることに抵抗がないか」といった意向を確認することです。その時点で、どこまでがOKでどこからがNGなのかも確認しておきます。ここで大事にしているのは、「できるかどうか」ではなく「やりたいかどうか」です。同意とは、本人が明確かつ積極的にイエスと言うことであり、それ以外は同意ではないと考えています。 本を読んで、西山さんはインティマシー・コーディネーターとして、「同意」を非常に大切にしていることが伝わってきます。 たとえ一度はYESと言ったとしても、本当は迷いがあったり、迷惑をかけたくないからとか、面倒くさいと思われたくないから、という思いからそう言った可能性もあります。歪なパワーバランスの中でのYESは、本当のYESかどうか疑う必要があるでしょう。 以前OKと言ったことでも、今回もOKとは限りません。だからちゃんと毎回確認する必要があります。また、「あとになって『無理』と覆す権利がある」と伝えるようにしているそうです。あとあと後悔する、ということは誰しもあると思います。後悔したとしても、YESと言ったのは自分なのだから、覆してはいけないと思ってしまうのではないでしょうか。 だからこそ、“明確かつ積極的なイエス”以外は同意ではない、やっぱり嫌だと思ったら覆していいという指針は、とても重要だと思います。