明確かつ積極的なYES以外は「合意」ではない。性的シーンの撮影で俳優を支える、インティマシー・コーディネーターの役割
押し倒して無理やり…がまかり通ってはいけない
近年「性的同意」という言葉が浸透してきました。以前は明確なNOがなくても、強く抵抗しなければOKしたも同然、なし崩し的に性的関係になっても合意があったということ、と捉える文化もあったように思います。しかし、今ではたとえホテルに行ったとしても性的同意ではないし、最初YESと言ったとしても、途中からでも嫌だと思ったらNOと言う権利がある、という考えが徐々に広まってきました。何事においても、きちんと相手の意思を確認することの必要性が見直されてきているのだと思います。 西山さんは、ドラマ中のセックスシーンでも、何らかの形で互いが同意していることを示す描写が必要ではないか、と監督に訴えているそうです。確かに、昔ほどではないですが、女性側が嫌がっていても男性側がキスをしたり、押し倒したりするシーンは、いまだにドラマでも見られます。性的同意の必要性が社会に浸透するためには、ドラマの中から改善していく必要があるのではないかと思います。
「No is No」でしかない
西山さんは俳優と「できるだけ個別で話すこと」を意識しているそうです。他の人がいる場では、同調圧力を感じてしまいかねないからです。また、俳優からのNGを制作側に伝える際、代案を提案すること、俳優が面倒くさい人と思われてしまわないよう、言い方に気をつけること、さらに俳優からこれは嫌だと言われても、なぜ嫌なのかを聞かないことを意識しているそうです。 「なぜ嫌なのかを聞かないこと」は少し意外な印象を受けました。何かを交渉するとき、理由を開示することが円滑に進めるために必要だと思っていたからです。 日本人は何かと理由を聞きたがるところがあるので、そこは気をつけたい。英語で表現すれば「No is No」でしかありません。 (中略) 相手に誠意や熱意を見せればどうにかなる。日本の撮影現場では、そんな根性論がまかり通りがちです。しかし、世界の視点で見ると、嫌なものは嫌だと主張するケースのほうが多いのではないでしょうか。そういう意味で、アメリカの人々はNOと言うことにも、言われることにも、慣れているような気がします。 確かに、日本では、NOと言われても理由を探って、誠意を見せて考え直してもらうのは必要な努力だ、という文化があるのかもしれません。しかし、「なぜ?」と聞くことで、相手にプレッシャーを与えてしまいかねないのだと言います。 また、インティマシー・コーディネーターは事前の説明や同意の確認だけでなく、演じたあとの俳優へのヒアリングも行います。その際気をつけているのが、「大丈夫?」と聞かないことだそうです。 ことに日本人の場合、ただ「大丈夫?」とフワッと聞くだけだと、文化や習慣からか、たとえ本当は大丈夫ではなくても、「大丈夫です」と反射的に答えてしまうことが多い。 「大丈夫?」と聞かれると大丈夫と答えてしまうので、〇〇は大丈夫だった? と具体的に尋ねるそうです。