「いつの間にか量減ってない?」 メーカーがステルス値上げに走るジレンマ #くらしと経済
専門家が解説する、メーカーの抱えるジレンマ
こうしたステルス値上げは過去に炎上したこともあった。炎上の対象となるのは小売りではなく、メーカーだ。だが、「メーカー側にもやむにやまれぬ事情がある」と指摘するのは価格戦略に対するコンサルティング事業を手掛けるプライシングスタジオの代表取締役社長の高橋嘉尋氏だ。 「メーカー側も原価や輸送コストの高騰を商品に価格転嫁したいけど、小売りがそれを許してくれない事情もあります。いい例がドラッグストアです。近所のドラッグストアを思い浮かべてほしいのですが、どの店も商品のラインアップにほとんど差はありませんよね。スーパーのように生鮮食料品で勝負することもできません。その結果、“1円でも安いほうがいい”という価格だけの勝負になってしまいます。するとメーカーとしても小売りで取り扱ってもらうために価格をなんとか維持しないといけなくなります」
実際、2022年に花王が一部商品を値上げした際には、大手小売りスーパー・オーケーが花王製品の約3割を取り扱わないことを発表した。値上げをすれば消費者からはそっぽを向かれ、小売りからは厳しい目を向けられる。 ならば内容量を減らしてでも値段を維持しようとなるのはメーカーとしては自然なことかもしれない。 多くのメーカーで価格設定のコンサルを行う高橋氏はこう指摘する。 「しかし、ステルス値上げは露見すると信用を大きく毀損する可能性がある“諸刃の剣”です。逆を言えば、消費者に納得してもらえれば、値上げが受け入れられることもあるし、値段を維持したまま、内容量を減少させる実質値上げも可能になります」
どうすれば、値上げは受け入れられるのか
メーカーや小売りとして値上げを納得してもらうにはどうすればいいのだろうか? 「身もふたもないことかもしれませんが、まずは素直に謝る、ということですね。好例がガリガリ君の値上げのときに赤城乳業が掲載した謝罪動画ですね」 高橋氏が指摘したのは、2016年に赤城乳業がアイスキャンディーのガリガリ君を60円から70円に値上げしたときの話だ。赤城乳業の社員が頭を下げる動画を掲載したところ、再生回数は数百万回に達し、世界中でも「10円の値上げでここまでやるのか」と注目された。 謝罪以外の方法として、高橋氏が指摘するのは「消費者のメリットを訴求すること」だという。 「例えばコカ・コーラ。スーパーでは、500mlのペットボトルは販売されておらず、350mlと700mlのみの展開です。その理由は、1人で飲むには500mlは多すぎましたし、2人で飲むには500mlでは足りなかったから。昨今、1人世帯が増加しているなか、グラム単位では2割ほど割高な350mlサイズが“ちょうどいい”という理由で選ばれています。他にもネクターはサイズダウンしました。味が濃いドリンクは従来のサイズだと飲み残す人が多かったことから、飲みきりやすくサイズダウンしたことで好感を持たれたのだと思います」 ただし、注意が必要だ。 「謝罪に関して言えば、何でもかんでも謝ればいいわけではありません。赤城乳業の謝罪動画は、『わずか10円でもここまで真摯に謝る』というきちんと意図がある“狙った”謝罪動画です。ユーザーのメリット訴求もどんな理由でもいいわけではありません。間違ったメリット訴求をしてしまうと失敗してしまいます」 過去には、食品メーカーが内容量を減らした際、「筋肉への負担が軽減する」とメッセージを出したことで「ステルス値上げを正当化するのか」と消費者から総スカンを食った事例もある。 「 “値付け”は消費者とのコミュニケーションの一つです。メッセージの出し方を間違えれば、消費者が離れたり、消費者層が変わってしまったりすることもあります。過去に、レトルト食品の内容量を減らしたところ、主要顧客が3~4人の家族から独身男性に変化した事例もありました。すると企業は、パッケージのデザインから広告の打ち方まで変えなくてはならないのです。それくらい気をつけなければなりません」 値上げや容量の変更など、消費者もその裏側にある背景を理解したうえで、商品を選択するようにしたい。 --- 「#くらしと経済」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。生活防衛や資産形成のために、経済ニュースへの理解や感度をあげていくことは、今まで以上に重要性を増してきています。一方で経済や金融について難しいと感じる人も。くらしと地続きになっている日本や世界の経済について、身近な話題からひもとき、より豊かに過ごすためのヒントをユーザーとともに考えます。