不安定な動きを続ける東京市場と日銀金融政策(主な意見):追加利上げは早すぎたのか?遅すぎたのか?
日銀に金融市場を安定化させる政策余地はなく口先介入の効果は一時的
前日(7日)の米国市場で、中東情勢への不安などからダウ平均株価が234ドル安となったことや、ドル円レートが前日の東京市場よりもやや円高水準で戻ってきたことを受けて、8日の日経平均株価は大幅下落で寄り付いた。寄り付き後、一時800円超の下落を示した。日銀副総裁の講演を受けた株価上昇分を一気に吐き出した形だ。今週月曜日に過去最大の下落幅を記録した日経平均株価の不安定な動きはなお続いている。7日には、金融情勢の混乱を受けて追加利上げに慎重姿勢に転じたとする日銀副総裁の講演を受けて、円安、株高が進んだが、その効果は一時的だったように見える。 金融市場が大きく混乱し、それが経済、物価の見通しに悪影響を与える状況に至っても、日本銀行には大幅利下げなど、いわば「実弾」で対応する余地がない。そのため、副総裁の講演のように「口先介入」で市場の安定に働きかけるしか手段がないが、政策の実態を伴わない以上、その効果は一時的、限定的に終わりやすい。
日本銀行の情報発信に課題
また、金融市場の動揺を受けた副総裁の政策方針の修正の説明は、あまりにも振れが大きかった印象がある(コラム「副総裁講演テキストで一転して円安・株高も効果は一時的か:安定性を欠く日本銀行の情報発信に課題」、2024年8月7日)。1週間前の植田総裁の説明との食い違いも目立った。金融市場の変動を受けて、日本銀行が政策姿勢をころころ変えるようだと、それは、日本銀行が動揺しているような印象を金融市場に与え、金融市場の安定回復の妨げになる可能性さえあるのではないか。 また政策姿勢についての説明が大きく振れると、金融市場は日本銀行の本意を測り切れなくなり、金融政策の先行きへの不確実性は強まる。また、政策への信認も低下しかねない。これらは、金融市場のボラティリティを高めてしまうだろう。日本銀行は情報発信のあり方を再度検討する必要があるのではないか。
先行きの政策金利引き上げのパスに不確実性が高まる
植田総裁は7月31日の決定会合で、金利水準がなお低いこと、円安による物価の情報リスクには早めに対応するのが適切であることから、先行き追加利上げを進めていく考えを示した。他方、金融市場の混乱を受けて、副総裁は先行きの利上げに慎重な姿勢を示した。 日本銀行が追加利上げを志向していることには変わりはないだろう。また、政策金利の最終到達点(ターミナルレート)も変わらないだろう。ただし、政策金利の最終到達点に達するまでの時間が延びた可能性は考えられるところだ。 仮に現在の金融市場の動揺が比較的早期に収まるとしても、それが企業の賃上げ姿勢、価格設定行動に与える影響をしばらく見極める必要がある。そのため、年内に追加利上げが実施される可能性は低下したのではないか。 さらに、米国経済が景気後退に向かい、米連邦準備制度理事会(FRB)が本格的な利下げに踏み切れば、日本では円高・株安の流れが再び強まるだろう。こうした局面に入れば、日本銀行は利上げを見合わせざるを得なくなる。 日本銀行の追加利上げ後に円高株安傾向は一気に強まったことは、日米金融政策が逆方向に動くという今まで経験していなかったことが、金融市場に予見できない大きな動きをもたらしてしまったのではないか、という恐怖心を日本銀行は味わっただろう。この点からも、FRBが本格的に利下げ局面に入れば、日本銀行は追加利上げを控えるだろう。その結果、次の追加利上げの時期が、2026年あるいは2027年まで後ずれする可能性もある。先行きの政策金利引き上げのパスについては、大きく不確実性が高まっている。