【大学トレンド】増える「デジタル分野」学部の新設 その狙いを青山学院大の稲積宏誠学長に聞く
親は口を出さない
――大学や学部・学科選びがとても難しい時代です。ご自身の経験をもとに、いまの高校生にアドバイスをお願いします。 学部選びは悩ましいですね。物理が好きだからといって、そのまま物理学科に行くことが必ずしも正解とは限りません。でもそれを、高校生の時点で理解するのは本当に難しいと思います。 本当は、私は芸術家になりたいと思っていました。小説を書いてみたこともありますが、才能がないと思ってあきらめました。では、どのような学部に行くかと考えた時、文系のことは本を読めば自分で学べるのではと思いました、偉そうですけどね。だからせっかく大学に行くなら理系にしようと思ったのです。それもただ技術を究めるのではなく、実社会と接点のある学びがいいと思って、経営工学という分野を選びました。 私は「この先生に教わりたい」と選んだ研究室がきっかけでその後の道が決まったので、人とのつながりの大切さを感じています。出会いや経験によって、自分でも思わぬ方向へ進んでいく。人生とはそういうものだと思います。 大切なのは、常に問題意識を持って、興味の幅を広くしておくこと。私からのアドバイスはこの一点に尽きます。同じものを見ても、何かを得ることができるか、それともスルーして忘れてしまうのか。それが日々の意識の持ち方で決まるのです。「これっておかしいのではないか」とか「これは面白いな」という感覚はいつも持っていてほしいし、そう感じた時には、ぜひ一歩踏み込んでみてほしいです。 ――保護者へのアドバイスはありますか。 「口を出さない」に尽きます。厳しい言い方になりますが、「楽して大学に行きたいなあ」と思っている子どもを、親が無理に塾に入れても意味はないでしょう。問題意識のない人は成長しない。高校生でも意識の高い子はいるし、意識の低い子は思い通りにならないことを経験しないとわからないと思います。むしろ口を出すべきは、その時です。子どもが本当に苦しんでいる時に、どんな言葉をかけることができるか。これこそが親の勝負どころではないでしょうか。
プロフィール
稲積宏誠(いなづみ・ひろしげ)/1956年生まれ。早稲田大学理工学部卒、同大学院理工学研究科機械工学専攻博士前期課程修了。工学博士(早稲田大学)。カナダ・オタワ大学計算機科学科客員研究員などを経て、1993年青山学院大学理工学部経営工学科助教授。同大学理工学部情報テクノロジー学科教授、理工学部長・同研究科長、社会情報学部教授、社会情報学部長・同研究科長、副学長、社会連携推進機構機構長などを経て、2023年12月青山学院大学第20代学長に就任。専門は情報理論、人工知能、機械学習、日本語教育。
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