辞めるなら「損害賠償」を請求するぞ…上司から脅迫まがいの慰留。退職を無理やり引き留められたときの対処法とは?【転職のプロが助言】
Aさんは日本の労働三法で保護される立場にある
では、正解を申し上げましょう。Aさんはまったく責任を負うことはありません。なぜなら日本国憲法では、職業選択の自由が認められているからです。その原則は商法や会社法に優先します。 さらに民法の使用者責任の項目に照らして考えると、「Aさんがいたから契約した」というのは契約に立ち会っていないAさんにとってまったく関係ないことです。これはあくまで会社がセールストークとして書いたことで、Aさんがその契約全体の責任を負わなくてはならないなどということはありません。 もしもAさんが当該企業の社長であるとか、委任契約に基づく経営の全体責任を負うといった立場であれば、この話の細部をもう少し見なくてはなりません。現在の職位はチームリーダーと課長の間に該当するということで、組合に加盟しているレベルとも見られます。労働三法によって保護される立場であり、このような巨大な経営リスクを負うような該当者ではありません。 むしろ、この会社はAさんが何らかの理由でダメになったらすべてのプロジェクトが破綻するというようなことを表明したことになり、リスク管理がおかしくなっているといえます。Aさんを欠いたとしても誰かが代わりとなり、プロジェクトを滞りなく進められるようにしておくことは会社として当然です。ですから、Aさんは自分の自由意思で現職企業との労働協約を解除し、他社に転職することができます。
脅迫まがいの引き留めが企業にもたらす“多大な損失”
この一連の流れのなかで注意しなくてはいけないことに、次のようなポイントがあります。現職企業がもし大企業だとすると、この上司の言動が人事部門に知られることになったら、おそらく人事部門はあわてるでしょう。この引き留めの事案では、明らかに上司が行き過ぎた言動をしているからです。人事部門と緻密に連携していれば、このような慰留をするとは思えません。 人事部門としては、ここまで行くと別の問題が起きることを懸念したはずです。別の労働裁判に持ち込まれる可能性もあるなど、非常にリスクの高い言動で上司が暴走してしまっています。人事としては退職届の提示から法律で保護されている範囲で、極端にいうと退職を認めなければなりません。 退職を申し出た人物に「お願いしますよ」と言うことはできても、引き留めることはできません。上司が自分の立場が危うくなることを恐れて、独断で訳のわからない引き留めをしてしまったということが、こうしたケースで多くを占める実態といえます。 Aさんの事例は、労務部門が「こういう風に引き留めてください」という内容をはるかに超えてしまっています。このような引き留めをしてしまうと、脅迫的な言動をしたことになりかねず、現職側が一気に不利になります。時間稼ぎにもなっていません。 ほとんどの場合、「なぜ退職の意思が出てたのか」と上から叱責されるのを怖がって、こういうことをしてしまうわけです。エージェントなどのサポートを受ければ、本人が強く転職を希望している以上、円満退職に向かうハードルはかなり低いといえるでしょう。現職企業のほうが失うものが多くなるに違いありません。