「出てこい」県議宅前で演説、SNS拡散 「口撃」波紋 兵庫知事選
兵庫県の斎藤元彦知事(47)が再選された知事選(17日投開票)では、ネット交流サービス(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷が飛び交っただけでなく、従来の選挙戦では想定されなかった戦術を繰り出す候補の存在が波紋を広げた。選挙運動の中で、立場を異にする政治家を標的にした「口撃」はどこまで許容されるのか。県議会では、国に対策を求める動きが出ている。 【写真まとめ】斎藤氏の当選確実にわく街頭の支持者たち 「斎藤氏を支援する」と公言して知事選に立候補した政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏(57)は、異例の運動を展開した。斎藤氏のパワーハラスメントなどの疑惑を追及してきた県議会調査特別委員会(百条委)の委員に対し圧力とも取れる演説をした。マスコミも批判の俎上(そじょう)に載せた。 「出てこい奥谷」「自死されたら困るのでこれくらいにしておく」。百条委員長の奥谷謙一県議(39)の自宅兼事務所前に、立花氏の「街頭演説」が鳴り響いた。拡声器を使い、県議宅のインターホンを押す様子も。大勢の人がこうした言動を見ている様子も含めた動画がSNSを通じて拡散され、何十万回も再生された。 奥谷氏は投開票日翌日の18日、記者会見で「大変強い恐怖心を覚え、家族に避難してもらった。日常と違う生活をせざるを得なくなり、業務に支障が出た」と述べた。22日には、立花氏について名誉毀損(きそん)容疑で告訴したと明らかにした。 百条委の委員だった別の県議は18日、一身上の都合を理由に議員辞職をした。SNS上では、百条委での県議の発言を取り上げた投稿が拡散された。また、立花氏のアカウントも県議を名指しし「デマを撒(ま)き散らして、有権者を騙(だま)そうとしていた」とX(ツイッター)に投稿していた。関係者によると、家族の心身の健康を踏まえて辞職を決断したという。 県議の地元・同県姫路市の清元秀泰市長によると、県議は「家族が家から出られない日が1週間も続き、身も心もボロボロになった。自分の家族を守れないのに市民、県民は守れない」と話していたという。 県議が所属する会派の上野英一幹事長は「誹謗中傷で身の危険を感じ公務執行ができなくなる状況は看過できない」と憤る。 立花氏は選挙戦で、斎藤陣営が演説した直後に同じ場所で演説をする手法を取った。大勢集まった斎藤氏の聴衆に対し、百条委の話題を出しながら「マスコミは事実を隠している」「斎藤さんは悪くない」などと主張。当時の取材に「斎藤さんの言えない裏側を解説している」と語った。 立花氏は22日の記者会見で、奥谷氏の訴えに対し「脅しではなく、百条委の秘密会の音声データが漏れているから電話しても出ないので『何もしないんですか』と質問しに行っただけだ」と主張。公の場で自分を批判した奥谷氏側を名誉毀損などで訴えるとした。辞職した県議については「政治家は命をかけてやるものだ」と述べた。 百条委は、斎藤氏らに対する文書告発問題を調査するため6月に設置された。告発者の元県幹部について、県が内部調査で「核心的な部分が事実ではなく、誹謗中傷にあたる」として懲戒処分したことに対し、「公平性、客観性に欠ける」と問題視。各会派から計15人で構成する。 知事のパワハラや贈答品授受など七つの疑惑について、月数回のペースで証人尋問などを続けている。県幹部を含む職員らを証人尋問しており、斎藤氏や辞任した片山安孝元副知事らへの尋問はインターネットで中継した。 斎藤氏は18日、報道陣の取材に「SNSは今回の選挙戦においては大きなポイントだったと思う。草の根的にいろんな方が私の政策を整理し、拡散してくれたこともすごく重要だった」と振り返った。ただ、立花氏の動きについては「選挙中も関係なかった。彼の立場で主張されたと思う」と無関係であることを強調した。【中尾卓英、入江直樹、村元展也】