日本上陸25周。「ピエール・エルメ氏」を驚かせた、日本の魅力とは?単独インタビュー
25年間で変化した日本人の味覚と技術力。伝統と革新の調和が新たな菓子を作り出す
ピエール・エルメ氏が日本との親交を深めるようになって25年。日本はどのように変化したと思いますか。 ―大きな変化を感じているよ。まず、昔の日本ではビターチョコレートは全然人気がなかった。しかし今は多くの人が日常的に食べるし、知識も遥かに増えている。 確かに、今ではビーントゥバーに特化しているところや、独自のスタイルをもったチョコレート専門店を街のいたるところで見かけます。 ―文化的なところでは、伝統とイノベーションのバランスがよく取れていると感じる。日本人のパティシエも増え、彼らのスキルやレベルも高い。フランスの真似ではなく、彼らのスタイルや姿勢を表現したお菓子が誕生するようになった。本当に素晴らしいと思うよ。
ピエール・エルメ流ショートケーキ。「ショートケーキ イスパハン」誕生秘話
日本特有のものと言えばショートケーキがあります。ピエール・エルメ氏も独自の解釈でショートケーキを作られていますよね。 ―「ショートケーキ イスパハン」のことだね。そしてロールケーキも“日本のケーキ”だ。実は、どちらも日本で『ピエール・エルメ・パリ』をオープンして直ぐに『ホテルニューオータニ』から提案されたお菓子だった。でも22年間ずっと作ることを渋っていたんだよ。 作る意義を感じたのは2020年ごろ。ショートケーキとロールケーキに僕なりのエッセンスを加えて作ったんだ。 昨年には“ジャポニズム”というコレクションも発表したよ。桜や柚子などの素材を沢山使用したコレクションで、西洋で日本はどう映っているかを味覚で表現したかったんだ。 “ジャポニズム”とは、19世紀を代表するフランスで起きた日本趣味のこと。印象派の画家モネやゴッホも“ジャポニズム”の影響を強く受けた作品を残しています。ピエール・エルメ氏の“ジャポニズム コレクション”もまた、西洋から日本の文化を逆輸入したときのような、新しい視点と発見がありました。
インスピレーションの源は芸術にある
先ほどの“ジャポニズム”然り、新しいクリエーションをするとき食以外の分野でインスピレーションを受けることもあるのでしょうか。 ―沢山あるよ。日本の作家・谷崎潤一郎の『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』はずっと僕のお気に入りの1つ。まだ読んだことのない人がいたらおすすめしたいね。 もっとパーソナルなところでは、画家であり詩人の友人がいるんだけど、彼と話していると沢山の刺激があるんだ。お菓子とコーヒーが大好きな人で、「マカロン」という題名の素晴らしい詩を送ってくれたこともあった。