にしおかすみこ、認知症の母の誕生日をダウン症の姉と料亭で祝う
お料理が運ばれてきた
お料理が少しずつ運ばれてくる。 仲居さんが一品、一品説明してくださる。その度に母は「はぁ、ほぅ、へぇ、そうですかー。わぁ、すごい。ありがとうございます」とやや過剰な相槌を打つ。 そして私たち3人だけになると、ひと口食べ、箸を置く。スッと無表情のスイッチを切ったような顔をし固まる。少し間を空けて、またひと口食べ、箸を置き、死んだような顔。……何で? 「美味しくないの?」と聞くと、 「え? 何で? 凄く美味しいよ。今まで食べたことないくらい!一回箸置かないと、ひと口ふた口で食べちゃうじゃない。宴がすぐ終わっちゃう。それにお姉ちゃん食べるの遅いし、お店の人がいつ次の料理を持って来ていいかタイミングを迷うだろう?」。 姉を見る。ひと口食べてはよく噛む。モグモグモグモグ。そして思い切ったようにゴックンと飲み込んで「ぜんぜん はがいらないの~」と。何を食べているかといえば豆腐だ。いいけど。どちらかといえば高級な肉を食べたときに使うコメントだよ。
お椀の蓋が…
お吸い物が運ばれてきた。お椀の蓋がくっついて、姉が上手く開けられないでいる。自分でやりたい派だ。中身をこぼさないようにお椀の下のほうを私が持ち、母がお椀のフチを押す。隙間からプスッと空気の入る音がし、姉がパカッと。ふぁ~っと鯛と柚子と出汁の香りが立ち上る。「ん~」と3人でひとつの湯気を嗅ぐ。 「いい、ゆだな♪あははん♬ さんはい!」……どう続けてよいか戸惑う。 その後もお刺身、焼物、煮物、揚物、最後に鰻が出てきた。 母が「えー?! いや~。ホントのメインはどれだい? これか。全部メインみたいな顔して出てくるからさ。昔はこれくらいペロリと食べられたんだけど、ママもお姉ちゃんも年取って胃袋が小さくなったんだねえ」 違うよ。朝のカレーがきいてるんだよ。高齢にしては食べている。無理せずに。 休憩しているふたりを前に、私は秘伝の甘じょっぱいタレとフワフワの鰻と米を口いっぱいに入れて、ついでに言う。 「ママ誕生日。83歳だよ。おめでとう。元気で長生きね」 「はい。ありがとさん。ごくろうさん。長生きしすぎもねえ」 姉がまとめに入る。 「わたしたちは いますぐ はらが はちきれて しにそうです」 笑った。 ◇次回は12月20日(金)に公開予定です。
にしおか すみこ(お笑いタレント)