「本職は内装業」「経験ゼロから独学」「制作期間は7年」――「狂気」の映画が世界で認められるまで
「僕ができたら、たぶん誰でもできる」
『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督は、本作に「狂った輝きを放ち、不滅の意志と創造力が宿っている」と称賛のコメントを寄せた。堀は「まさかこんなに人気になると思わなかった」と驚くが、作りあげた世界には自信がある。 「頭の中にかなりリアルなビジュアルが浮かぶタチなんです。頭の中にできあがっている映画をちゃんと表現できれば、絶対にいける自信がありました。不安は大きかったんですけど、『すごいもんができているな』という実感はあった。自分の趣味、今まで作ってきたものを詰め込んだ感じですね」
『JUNK HEAD』の主人公は「JUNK(ガラクタ)」で、特別な才能もないけれど、あきらめない。そんなキャラクター像に、堀は自身を投影している。 「自分は本当にバカだし、何でもない。そんな人間でもやり続ければ、何かはできる。僕ができたら、たぶん誰でもできる。いちかばちかの勝負だったんですけど、一人で始めて、これだけ世の中に認めてもらえたことが、挑戦している多くの人たちの励みになったらいいなと思います」 執念の制作工程を、自作のパンフレットにつづった。解説書のようなパンフレットは好評で、追加注文分を妻が自宅から劇場へ発送している。堀は塗装のアルバイトに通いながら、次回作の準備中だ。『JUNK HEAD』は3部作構想。次もまた、ほとんど一人で作るのだろうか。 「もうガッツリ人を入れたいです(笑)。本当に一人は嫌なんで。まあ、次が作れるかどうかは、制作費を稼げるか次第ですね」 --- 堀貴秀(ほり・たかひで) 1971年生まれ。大分県出身。2014年、自主制作の短編『JUNK HEAD1』でクレルモンフェラン国際映画祭アニメーション賞、ゆうばりファンタスティック映画祭短編部門グランプリ受賞。2015年、株式会社やみけん設立。2017年に完成した長編『JUNK HEAD』でファンタジア国際映画祭最優秀長編アニメーション賞、ファンタスティック映画祭新人監督賞などを受賞。