「本職は内装業」「経験ゼロから独学」「制作期間は7年」――「狂気」の映画が世界で認められるまで
「お金がない」「ド素人」から逆算の発想で
続編に向けたクラウドファンディングに2度失敗したものの、出資が決まり、2015年、長編『JUNK HEAD』の制作がスタート。30分の短編を修正し、新たに映像を加え、100分ほどの長編に仕上げることにした。 出資のおかげで、他の仕事をストップし、映画に集中できるようになった。内装業でも使っていた自宅兼工場をスタジオに改装。制作現場を作るところから始めた。 「元は古い倉庫だったプレハブみたいなところで、1センチくらいの薄い壁。夏は極暑、冬は極寒です。隙間風は入るし、中に草は生えるし。海が近いんで、しょっちゅうゴキブリホイホイにカニが捕まっているんですよ」 2階に住んでいるので、毎日、朝7時から夜11時までぶっ通しで作業した。今度は、少数ながら仲間ができた。 「友達に映像を作っている人とか、全くいなくて。制作工程を書いていたブログで『誰かやりませんか』と募集してみたら、遠い人は沖縄から乗り込んでくれた。集まったメンバーにも映像の勉強をした人はいなくて、ド素人集団だったんですけど。平均して、2、3人くらいで作りました」
内装業でコスト感覚が身に付いていた堀は、使えるお金を細かく割り振り、「逆算」しながら制作している。使用したカメラは初心者が使うような入門機で、三脚などの機材も鉄を溶接して作った。道具は基本的にホームセンターで揃える。当初は照明に冷蔵庫用の豆電球を使ったが、光が黄色いので変えた。手探り、手作りが日常だ。 全編で作品オリジナルの言語を使い、声の多くを自分で演じたのも、苦肉の策だった。 「短編の時に、お金がなくて声優さんを雇うのも難しかったから。流暢にしゃべれる能力はないので、モゴモゴ言って字幕を付けようと。口の中にティッシュを詰め込んだり、筒で反響させながら怪物の声を出したりして、それをエフェクトで多少いじって。意外と何とかなりました。ただ、あんまりいいかげんにしゃべってもイメージと合わないので、感情を込められるイントネーションとか、言葉を考えるのにかなり時間を使ってます」 例えば「おはようございます」は「シャケナツミソス」(鮭、納豆、味噌汁)。言葉選びには遊び心があり、「ダンボー!」「アッ、ポンチョ」といった語感の面白いフレーズも耳に残る。摩訶不思議な言葉が、結果的に作品世界の魅力を増している。