「本職は内装業」「経験ゼロから独学」「制作期間は7年」――「狂気」の映画が世界で認められるまで
膨大な時間をかけて撮影、そして絶望――
まずは30分の短編『JUNK HEAD1』に取り掛かった。 堀の選んだストップモーションアニメ(コマ撮りアニメ)は、被写体を少しずつ動かしながら静止画を撮影し、連続再生することで動いているように見せる技法だ。コマ撮りの長編映画は世界的にも数が少ない。コマ撮りで実写の映像なら、低予算の自主制作でも、ハリウッドの大作に引けをとらないものができるかもしれない。そう堀は考えていた。 だが、すぐに「大変な道を選んじゃったな」と気づく。 実写映画では1秒間に24枚の画像が流れているので、『JUNK HEAD』でも1秒の動画を作るために24枚の画像を撮影している。1秒のために、何時間も費やすことになった。 「コマ撮りだったら、動かして写真撮って、パラパラ漫画だろうっていうふうに、軽い感じで始めたんですけど……。でもまあ、始めちゃったからには後戻りできない」
全ての撮影を終え、画像をつなぐ作業に入った時、堀は絶望した。撮影した静止画をつないでみたら、つまらなかったのだ。 「3日間ぐらい眠れなくて悩んだぐらい、本当につまらない映像になってたんです。これまでの4年間を無駄にしたと思った。いまだにトラウマになってますね。動きがなく、学芸会みたいだったので、そこから画像1枚1枚、トリミングしたりして編集しました。そしたら、別物のように生きた映像になった。編集マジックを初めて知りました」
2013年、短編『JUNK HEAD1』が完成した。一人きりの制作で、誰かの感想を得ることもなく「あの4年間の孤独はしんどかった」と振り返る。アップリンク渋谷で1日だけ上映し、YouTubeにも日本語版と英語版を無料公開した。とりわけ海外から好評で、ハリウッドの製作会社からオファーが届いた。認められた喜びはあったが、引き受けることはなかった。 「英語が分からないので、スルーしちゃったんです。『作品やお金を用意するから来てくれ』みたいなことが書いてありました。自動翻訳なんで、うっすらとしか分からないんですけど。その後、アメリカ大使館からも連絡があって『あなたを探しているスタジオがあって、どんなことでも準備するから一緒にやりたいと言っています』ということだった。でも、ハリウッドは分業制で自由に作れないイメージもあった。そういう情報を本で読んで、『ハリウッド、こんなところなんだ。じゃあ俺には向いてねえな』と(笑)。やってみたいなっていう気持ちは、ちょっとありますけどね」