「本職は内装業」「経験ゼロから独学」「制作期間は7年」――「狂気」の映画が世界で認められるまで
“異例づくし”の映画が話題を呼んでいる。その名は『JUNK HEAD』。全編ストップモーションアニメで、1コマずつ撮影され、総コマ数はおよそ14万。監督の堀貴秀(49)が全作業を手掛け、7年の歳月をかけて作りあげた。堀の本職は内装業で、映像の制作経験はない。映画作りは独学だ。途中、ハリウッドからのオファーを受けても引き受けず、黙々と制作現場にこもった。「才能があるわけじゃなくて、あきらめなかっただけ」。なぜ作り続けられたのか。無謀な挑戦の理由、執念の制作について聞いた。(取材・文:塚原沙耶/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部、文中敬称略)
40歳目前、このままじゃ嫌だと思った
『JUNK HEAD』のエンドロールには、ひたすら「堀貴秀」の名前が並ぶ。監督、原案、キャラクターデザイン、編集、撮影、照明、音楽、絵コンテ、造形、アニメーター、効果音、VFX、そして声の出演40役以上……。それらをほぼ一人で担っているのだ。人類滅亡の危機が迫る未来、地下に生きる人工生命体を描いた長編ストップモーションアニメ――。濃密なSFの世界を、ゼロから築いた。 「この映画を作る前、いろんなことに手を出して、うまくいかなかった。人生が中途半端だった。40歳目前、このままじゃ嫌だと思って挑戦したんです。やめるのは自分が死ぬ時、というくらいの気持ちで。たぶん自分は才能があるわけじゃなくて、単純にあきらめなかっただけ。やり続けたからできた作品です」 映画の完成は2017年。海外の映画祭で多くの賞を受賞し、今年3月、日本での劇場公開に至った。当初10館ほどだった上映予定館は次第に増え、100館を超えた。観客の感想には「狂気」「情熱」「規格外」といった言葉が連なる。
堀はなぜ、未経験の映画制作に挑んだのだろうか。 「アートワーク専門の会社を起こして、内装とか壁画とか、いろんな仕事をやっていたんです。ただ、受注仕事なので、自分の感性を発揮できないもどかしさがあって。そんな時に、新海誠さんが一人で映画を作ったというニュースを見ました。『えっ、映画って一人で作れるの?』って。もともと映画ばかり見ていたので、本当に自分の見たいものを作ってみようと急に思い立ちました」 高校卒業以来、芸術家を志して、絵画、彫刻、漫画、操り人形やアクセサリーの制作など、あらゆる創作活動に着手しては「長続きせず、中途半端でやめていた」。しかしこの時、焦りから一念発起する。2009年の冬だった。 「内装の仕事はギリギリ生活できる程度、1カ月のうち1週間くらいまで減らして、それ以外の時間で作り始めました。取引先の人たちには『やめます』って言っちゃって。断ると仕事をもらえなくなっちゃうこともあるので、賭けでしたね」