日本版ロッキーになれるのか?WBOアジアヘビー級王者の藤本京太郎が英国での無謀な挑戦を決めた理由
プロボクシングのWBOアジアパシフィック・ヘビー級王者の藤本京太郎(33、角海老宝石)が12月21日、英国ロンドンに乗り込んで、WBOインターヘビー級王者のダニエル・デュボア(22、英国)にWBC同級シルバー王座決定戦も兼ねて挑戦することが13日、都内で発表された。デュボアは13戦12KO無敗の超期待のホープでKO率の高いハードパンチャーだ。京太郎が勝てば“世紀の番狂わせ”となるが、無謀なマッチメークでもある。なぜ京太郎は無謀な挑戦を決めたのか。
通常の7倍のファイトマネー
日本のボクシング史に1ページを刻む画期的な試合と言っていい。日本どころかアジアで不毛の階級とも言えるヘビー級で、京太郎が、タイソン・フューリーや、アンソニー・ジョシュアという3団体統一王者を生んだ英国の地に呼ばれ、世界ランカーのデュボアが持つWBOインター、そしてWBCシルバー王座決定戦の2冠をかけた戦いに挑戦することになったのである。WBOインターは日本では非公認のタイトルだが、WBCのシルバー王座は、しばしば指名挑戦者決定に代用される。デュボアは、WBOで6位、WBCで15位、IBFで12位にランクされている1メートル96の長身の13戦12KOのハードパンチャー。 去年までフューリーを抱えていた英国の大物プロモーターのフランク・ウォーレン(クイーンズベリー・プロモーションズ)が契約している“ポスト・フューリー”だ。 京太郎は、記者会見にド派手な衣装で臨み、「相手が恐ろしく熊みたいに強い選手なので、同じクマ科のゲストを用意しました」と、パンダの着ぐるみを着た阿部トレーナーを隣に座らせた。いつものおちゃらけで報道陣を笑わせたが、相手はおちゃらけでは済まない超本物のプロスペクト(将来期待の)ボクサーなのである。 だが、先月21日に13か月ぶりにリングに立ち、6回にTKO勝利している京太郎は、その試合に集中するため、デュボアの映像を見ておらず、どれだけ強いかをつい最近まで知らなかったという。 「簡単に“いいよ”と言ったんですが、映像見たら身長で10センチ差があって恐ろしく強い。正直、ビビッている。ジャブから手堅いボクシングをするし、隙や弱点はないのかもしれない。でも、相手は若いし、プロ経験は僕の方がある。アジア無名のヘビー級選手が格上に向かっていくロッキーのようなつもりで戦いたい。どこまでやれるか。向こうは勝てると思っていて僕のことを噛ませ犬と思っているだろうが、オレにはそんな気持ちはない。どんなに強いチャンピオンでもボクシングは何が起きるかわからない」 ロッキーになる--。シルヴェスター・スタローン演じる無名のロッキー・バルボアが、強豪王者のアポロ・クリードの対戦相手が負傷したことから急遽代役として世界挑戦のチャンスをもらい、大善戦を見せるドラマに京太郎は自分を重ねた。 なぜこの無謀とも言える挑戦は決まったのか。 元日本、元WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王者の岡田博喜(29)がトップランク社と複数年契約を結ぶなど角海老宝石は強固な海外ルートを持っており、アジア初のヘビー級ボクサーとして京太郎を売り込み、これまでもWBA世界ヘビー級王者のマヌエル・チャー(ドイツ)からオファーが舞い込み決定寸前まで交渉が進んだ。そういう経緯からフューリーを抱えていた英国の大物プロモーターのウォーレンから、京太郎を名指しでオファーがあった。萩森健一マネージャーも「今までリスクを冒さないで挑戦を待っていた。攻めにいくことで世界のチャンスをつかむ」と、この話に乗った。 しかも、萩森マネージャーによると「これまでの7倍。通常のヘビー級世界戦の挑戦者並み」のファイトマネーがオファーされたという。おそらく、2、3000万円と推測されるが、京太郎は、「この試合を受けた理由はそこしかないでしょう」と、本音もチラリ。