日本版ロッキーになれるのか?WBOアジアヘビー級王者の藤本京太郎が英国での無謀な挑戦を決めた理由
そして、こうも続けた。 「長かった。暗闇を歩いてやっと辿り着いた。ほふく前進みたいな格闘人生。僕はゆるゆるでボクシングをやってきた。いつ辞めてもおかしくないくらい。モチベーションは、おそらく日本のボクサーの中で最低ラインでしょう。でも周囲に支えてもらってここまで来た。区切りとして大きな試合。集大成になる」 K-1ファイター時代にピーター・アーツに勝つアップセットを起こし、日本人として初のヘビー級王者となったが、ボクシングに転向、2011年の大晦日にデビューした。京太郎の存在でヘビー級の日本タイトルも復活。ミドル級から転身してきた元WBA世界ウエルター級暫定王者の石田順裕にも勝つなど、タイトルを3度防衛したが、対戦相手に困り、今年に入って返上。OPBF東洋太平洋、WBOアジアパシフィックというヘビー級のベルトも腰に巻いたが、世界への扉はいっこうに開かなかった。忸怩たる思いで8年間を過ごし、21勝(13KO)1敗の成績を残してきた京太郎にすれば、それがたとえ無謀な挑戦であるにしろ、やっと実現したヘビー級の世界的な舞台なのだ。もし奇跡が起きれば、それが世界へ通じる可能性さえある。断る理由など、どこにもなかった。 しかし現実は非常に厳しい。 豊富なアマチュア経験のあるデュボアは、ジャブからワンツーの基本で攻めてくるオーソドックススタイル。スピードに加え、パンチに威力があり、特に右のストレートの破壊力は抜群で1ラウンドから好戦的に攻めてきて、その右でダメージを与えて一気にダウンにまでもっていくパターンが目立つ。当て勘があり、左ボディなどもうまく、足を使ってごまかすことは通用しない。京太郎が、もし普通にボクシングをすれば、左の差し合いでやられて1ラウンド持たないだろう。 陣営も十分その力の差は理解している。 参謀の阿部トレーナーが策を明かす。 「最近、ユーチューブでピーター・アーツをKOした映像を見たが、凄いスピードだった。もっとスピードを上げて出入りをしたい。最後はカウンター勝負でなんとか倒して勝ちたい。デュボアの右に合わしたい。京太郎は左フックも打てる。そしてデュボアはパワーがあり綺麗なボクシングをする選手だが、今までの相手はフェイントを使っていない。キャリアがないからフェイントの上下にひっかかってくれれば、カウンターが生きる」 実は、京太郎は、いつの日かのビッグマッチに備え、昨年2度、ロスで合宿を張った。WBC世界ヘビー級王者、デオンテイ・ワイルダーと対戦経験のあるジェラルド・ワシントン、ドミニク・ブラジールともスパーリングを経験した。 「一方的にやられると思ったが意外と耐えれた。自信にはなった」 だが、その2人共にワイルダーにまったく歯が立たずボコボコにされてキャンバスに沈められたのにはショックだったという。 今週末には再びロスへ飛び、1週間から3週間の予定で、デュボアを想定した2メートル級の相手とスパーをこなしてくる。 「勝利のイメージはない。僕は、そもそも勝つと思って戦ったことがない。どう倒すかを考えたことがない。向かい合って、ガードの上からパンチをもらって何をどう感じるかが大事だと思う。恐ろしく強いけど、10個も年下の奴にボコられるのは嫌。足を止めずに向かい合っていく。ここで勝つと人生が変わる。世界戦ができるかもしれない。ファイトマネーももっと上がってくる。人生を変えたい」 英国の地で日本人ヘビー級ボクサーのアップセットはなるのか。 現地では、すでにポスターが作られるなど、大きな盛り上がりで、会場のコッパーボックスアリーナは、約7000人収容。 現地の会見や計量でも、またおちゃらけるのか?と聞かれ「相手を怒らしたら怖いでしょ」と笑った。