イーロン・マスク氏「政府効率化省」トップ就任に批判の声 EV・宇宙開発業界の「規制撤廃」懸念
来年1月のトランプ次期大統領就任を前に、注目を集めている閣僚人事。本来は適性で指名されるはずだが、異常な展開を見せている。AERA 2024年12月9日号より。 【写真】「トランプ次期政権の顔ぶれ」はこちら * * * 「まるでトランプそっくりだ……」 米金融サービス会社キャンター・フィッツジェラルドの最高経営責任者(CEO)、ハワード・ラトニック氏がステージに立った際、そう思った。米大統領選挙戦終盤の10月27日、ニューヨーク市中心部にあるスポーツアリーナ、マディソン・スクエア・ガーデン(MSG)でトランプ氏が集会を開いた際のことだ。 同社は2001年9月11日の米同時多発テロで倒壊した世界貿易センタービルに本社があり、一企業で最多の658人の社員が犠牲になった。ラトニック氏のきょうだいも含まれる。 「ジハード(イスラム教徒の聖戦)は、たたきつぶさなければならない! なぜなら私はニューヨークを愛しているからだ!」 有名企業CEOらしからぬ雄たけびを上げてこぶしを鋭く空に突き出し、2万人の聴衆が歓声を上げる。 同氏は、ダミ声で叫び続けた。 「二つの世界大戦後、米国は世界を復興させる必要があり、そのために国民の税金を使った。それが2000年代になっても世界中の人々のランチを養っている始末になった。それを終わらせ、米国を再び偉大にする時がきた!」 「ビル・クリントン元大統領がテコ入れした(貿易障壁を撤廃する)北米自由貿易協定(NAFTA)のせいで自動車製造業は全部メキシコに行ってしまった。米国はもう車は生産していない」 「バイデン政権は、6.5兆ドルの予算を使い尽くしたが、トランプの偉大な閣僚チームは均衡予算を実現する!」 筆者の隣にいたジャーナリストがラトニック氏の演説の間、あきれ顔で首を横に振り続けていた。米国は、世界中のランチの面倒をみているわけではない。米国における自動車の生産台数は、23年に約1044万台と世界2位で、米国内に残る最大の製造業だ。米財政は、トランプファンが最も期待する減税など選挙期間中に掲げられた政策を全て実行する場合、今後10年間で約7兆~16兆ドルの追加的な財政負担が必要になる(責任ある連邦予算委員会=CRFB=の試算)。つまり、均衡予算など夢のような話だ。