イーロン・マスク氏「政府効率化省」トップ就任に批判の声 EV・宇宙開発業界の「規制撤廃」懸念
これだけの誤情報をわずか8分のスピーチに詰め込んだラトニック氏を、トランプ氏は次期政権の商務長官に指名した。関税引き上げなどラトニック氏の「アメリカ・ファースト」的な政策を評価した結果だ。 さらにMSGで、ラトニック氏がステージに呼んだのが、トランプ氏との急接近が注目されるイーロン・マスク氏だ。支持者から「イーロン! イーロン!」というコールが起きた。電気自動車(EV)大手テスラCEO、宇宙開発大手スペースXのCEO、そしてSNS大手X(旧Twitter)のオーナーでもある。また、資産3137億ドル(約48兆円)と世界一の富豪であり、その規模は日本の一般会計の半分弱にも相当する。 彼は、トランプ氏が当選した直後に発表されたファミリー写真にも写っていた。一家の一員となり、一体何をしようとしているのか。 ジョー・バイデン大統領は21年8月5日、ホワイトハウスで「EV推進サミット」を開き、ゼネラル・モーターズ(GM)など米自動車大手3社のトップなどを招いた。気候変動に対応するEV推進サミットは、米メディアが「野心的」と報道した。しかし、EV世界最大手テスラのマスク氏の姿はなかった。招待されていた全米自動車労組(UAW)代表への配慮があったと伝えられている。UAWは長年、テスラ社員の組合化に失敗しているためだ。マスク氏は「変だよな」とSNSに投稿した。米紙ニューヨーク・タイムズのマスク氏担当記者は、同氏はこの時に、ホワイトハウスで自らが当事者となり、政策に影響を及ぼすことを決心したのではないかと指摘する。 ■政府効率化省のマスク氏、自身の業界規制撤廃するか また、スペースXでの宇宙輸送や宇宙旅行、ロケット事業のため、マスク氏は十数省庁に対しての手続きを行ってきた。かつては米航空宇宙局(NASA)が国家事業として独占してきた宇宙開発を民間企業が担うためには、「規制」の障壁が立ちはだかり、マスク氏はそれと闘う因縁があった。規制を毛嫌いする共和党保守派とここで共鳴した。 マスク氏が今回手にしたポストは、新設の政府効率化省(DOGE)のトップ。省庁のお役所仕事を激減させ、規制を撤廃し、経済発展につなげるという。しかし、因縁のあるマスク氏がEVや宇宙開発といった自らが経営する業界の規制撤廃に利用するのではないかという批判が早くも上がっている。 (ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク) ※AERA 2024年12月9日号より抜粋
津山恵子