「ヒップホップ・ジャパンの時代」──Vol.10 JP THE WAVY x DJ DARUMA & JOMMY(PKCZ®)
日本のヒップホップ・シーンの盛り上がりを伝える不定期連載。第10回は、シーンの最前線を走るJP THE WAVYが「ダルジョミが先生」と語る DJ DARUMA & JOMMY(PKCZ®)との鼎談が実現! 1990年代初頭よりヒップホップダンサーとして東京のクラブシーンの成長を体感し、いまもなおDJとしてフロアを盛り上げるふたりと新鋭ラッパーにライターの渡辺志保がヒップホップカルチャーを取り巻く環境を訊いた。 【写真の記事を読む】第10回は、シーンの最前線を走るJP THE WAVYが「ダルジョミが先生」と語る DJ DARUMA & JOMMY(PKCZ®)との鼎談が実現!
──今日は、ライブや楽曲を通して公私共に関係性の深い3名に集まっていただきました。数十年を掛けて、日本でもヒップホップ・カルチャーが浸透してきたわけですが、実際にご自身を取り巻く変化などを感じることはありますか? JP THE WAVY 最近は、両親もライブに来るようになったんですよ。大きな会場で開催されるフェスとか、ツアーのファイナルとか。知らない間に、親がANARCHYさんと2ショットを撮っている時もあって(笑)。 JOMMY 自慢の息子だよね。JP THE WAVYのパパは昔からニュージャックスウィングとかを聴いていたんだっけ? JP THE WAVY そうですね。アメリカのそういうカルチャーが好きだったんですよ。車のショーとかにも連れて行ってくれた想い出があります。 ──かつて、JP THE WAVYさんがダンスを始めたのも親からの影響が大きいですか? JP THE WAVY ダンスは友達がやっていて、中学生の頃に自分で「やろう」と決めました。 ──キッズダンスもすごくポピュラーなものになりましたよね。踊っているキッズたちを見ていると「どんな大人に成長するんだろう?」と感じることもあります JP THE WAVY こうなります(笑)。 DJ DARUMA すごくいい例ですよね。僕の息子は小6なんですが、とにかく日本語ラップも熱心に聴いています。僕がそっちの方向に促したこともあったんですが、彼にとって明確なきっかけがあって、それが東京ドームで開催されたGENERATIONSのライブでした。その時、JP THE WAVY がゲストで来ていて、「ラップ超かっこいい!」って。それが小学3年生くらいの時で、それからは自発的に聴いていますね。 JP THE WAVY 小さい子が僕の曲を歌ってくれたり、「ファンです」みたいに言ってくれることもあって、その度に「(こんなに小さいのに」マジか」って思うし、最近はメーガン・ザ・スタリオンとかカニエ・ウエストとか、自分の曲に日本語を交えるアーティストもいますよね。そういう光景を見て「やっとそのフェーズが来たか」って思っています。僕も、どの国に行っても声を掛けてもらえるのは本当に嬉しい。 JOMMY 今年はBAD HOPの東京ドーム公演が印象的だったよね。会場に入ったら、もうお客さんがパンパンに入っていたからテンション爆上げ。「日本のヒップホップ・アーティストがこの空間でライブをやるんだ」と思うと、ライブが始まる前から勝手に一人で感動して胸がいっぱいになってましたね。 DJ DARUMA その後、ステージにジブさん(Zeebra)が出てきてT-Pablowくんと一緒に「Empire of the Sun」を歌って、そのリリックにも泣かされるっていう。 JOMMY そうそう。あと、会場皆が待っていた「Friends」でJP THE WAVY が出てきた時の地鳴りのような歓声もすごかった。 JP THE WAVY あんな歓声は初めてでした。「日本代表戦かよ」みたいな。熱気も凄かったし、あの人数がBAD HOPを観にきているんだっていうところにも圧倒されましたね。 JOMMY お客さんが全員、歌詞も歌って、みんなが携帯をステージに向けていて。あの光景もすごかった。フィーチャリング・アーティストも豪華だったし、みんな本当にかっこよかった。 ──ライブやフェスもどんどん規模が大きくなって、その度に圧倒されますよね DJ DARUMA ライブということで言うと、僕は2022年の3月に行われたAwichの武道館公演がすごく印象的でした。あの日、ストリートやファッション業界の、いわゆる顔役と呼ばれるような人たちがこぞってみんな彼女のライブを観にきていて、その時に「俺らのAwichを押し上げるんだ」っていう空気をすごく感じた。Awich、ひいては日本のヒップホップを盛り上げるぞ、という集中力を感じましたね。 あと、ちょっと前に、今日の3人に加えてBIMとkZmも一緒に飯に行ったタイミングがあって。その帰り、お店から出た時に中学生くらいの子たちがチャリに乗って、スピーカーで音楽を掛けていたんです。それがAwichの曲だった。そこで、「普通の中学生が日本語ラップを聴いているってやばくない?」ってJP THE WAVYが言っていたのが印象的で、スケートのパークに行っても、スケーターの若者たちが掛けている音楽の多くが日本語ラップだし。そういう日常の小さな場面で、ヒップホップの裾野が拡がったんだなって感じますね。 JOMMY 僕は2年前にJP THE WAVYと一緒に「HOT GIRL」って曲を出したんですけど、その頃、僕の子どもがお台場のスケートパークによく行っていたタイミングでもあったんです。そこで、パークに行ったら小学校高学年の子や中学生のお兄ちゃんたちが、「JP THE WAVYとの曲、聞いたよ!」って駆け寄ってきてくれて。すごく褒められました(笑)。最近だと、逆に子どもから曲やアーティストを教えてもらうこともあるしね。 DJ DARUMA うん、あるある。子供たちに「あのMV新しい観た?」とかも言われますね。 ──そんな中、JP THE WAVYさんはトレンドのど真ん中にいらっしゃるわけじゃないですか。自分の生活や環境において、変わったことはありますか? JP THE WAVY 一番最初は生活自体がガラッと変わって、そこからどんどん知名度が上がっているのかなと感じることもありましたけど、最近はもはやよく分からないですね。でも、作る曲に関しても行動に関しても、自分がかっこいいと思うか思わないか、それが判断基準になっているということは変わりません。 JOMMY 僕は、JP THE WAVYのキャリアがスタートした時から近くで見させてもらっているけど、ライフスタイルとかあまり変わっていないよね。アウトプットする機会はたくさんあると思うんだけど、「一体、どこでインプットしているんだろう?」って気になる。 JP THE WAVY 本当に変わらないですね。1日中、ずーっと音楽を聴いて、洋服のことをずっと調べている。ご飯と睡眠以外は、大体それだけで1日が終わる。だから、執着心は半端ないと思います。ほしいと思ったら絶対買うし、やりたいと思ったらそのことばっかり考える。ただ、海外だとテンションが全然違います。アクティブになって「超楽しい!」みたいな。パリも、めっちゃ楽しかったじゃないですか。 JOMMY 2018年のファッションウィークの時に、HIYADAMと3人で行ったんだよね。 JP THE WAVY 20時間以上飛行機に乗って、ASICSのイベントでライブをやったんです。JOMMYさんにDJをやってもらって。 JOMMY すごくいい時期に行ったよね。ちょうどヴァージルの(Louis Vuittonの)ファースト・コレクションのタイミングで。パリがアメリカみたいな感じになっていて、いろんな人たちが集まっていた。夜も至る所でパーティーが開催され僕も各クラブでDJさせて貰いました。あの時のJP THE WAVYは今みたいにヒット曲がたくさんあるわけじゃなかったけど、パリっ子たちがみんな僕が流す「Cho Wavy De Gomenne」で合唱してたし、その光景をすごく覚えてるな。 ──JP THE WAVYさんは、LDHに所属するPSYCHIC FEVER from EXILE TRIBEへの歌詞提供やプロデュースという形でコラボレーションを行なっています。DARUMAさんも、LDHの新鋭グループであるWOLF HOWL HARMONYを中心に若いグループのクリエイティブ・コーディネーターを担っている。コアなストリートのシーンを見つつ、こうした言わばマスなヒットを狙うボーイズグループとも共に活動しているわけですが、そのバランスはどのように保っていますか DJ DARUMA そのバランス感は、簡単ではないので様々な場面で常に挑戦しています。Wavyと一緒にPSYCHIC FEVERのことを話した時にJP THE WAVYが「俺自身がやりたいことをやってる」って言ってたんです。「自分がかっこいいと思っていることを、そのままぶつけている」と。結果、PSYCHIC FEVERがリリースした「Just Like Dat ft. JP The Wavy」はアジアからアメリカまで広まって大きなバズを呼ぶ曲になりました。 例えば、ストリートのアティテュードに振り切りすぎたとしても、そういう曲や表現はもうすでにストリートに存在しているわけですよね。でもそのエッセンスを全く入れないのは僕らしくないし、僕がやっている意味も無くなってしまう。どの調合の仕方でクリエイティブをしていけばいいのか、タイミングによって変わるだろうし、実際にヒットしてナンボだと思っているし、より大きなバズが起きた時に日本以外の各国、つまり世界への扉が開くのであれば、絶対に自分たちの世代のプロデュースやディレクションでそれを作りたいと思っています。 ──自分がアートとしてかっこいいと思うものと、商業的に売れるものは必ずしもイコールではないですよね。「売れるものを作らねば」というプレッシャーを感じることはありますか? JP THE WAVY ありますね、絶対に。ヒットを作りたいなと思って作っているし、バズらなかったら悲しい。それに、狙って作ったものより、狙わずに作った方がバズることもあるので。「Just Like Dat feat. JP THE WAVY」は作っている時から超絶かっこいいと思っていましたけど、それが多くの人に受け入れられるかは分からなかった。今流行っているど真ん中のサウンドでもなかったし。なので、ここまで流行るとは予想外でした。TikTokで海外の色んな人たちがリアクションしている様子とか、毎日YouTubeにリアクション動画がアップされているのを見ていて「これはだいぶ違うな」と。 DJ DARUMA WOLF HOWL HARMONYは勿論、若い世代のモチベーションは全員すごく高いです。メンバーたちは本気で人生を賭けているので、そんな彼らと一緒にアリーナやドーム、スタジアムまでどうやって行くのか、という命題に向き合うのはめっちゃ大変です。彼らも本気なので絶対に中途半端にはできないですね。 ──そうした大きなヴィジョンを見ながら、ストリートのクラブも皆さんの活動範囲内ですよね。あらためて見る、小さな文化的コミュニティの良さとは何でしょうか DJ DARUMA 僕は、 15歳くらいからクラブに行き始めた感覚で今もずっと現場にいます。魅力的なところはずっと変わらないし、エネルギーもすごくある。JP THE WAVYと僕も20歳も年齢が違うんですよ。でも、JP THE WAVYのことは後輩でもなく勝手に友達だと思っている。そういう現場にいると、世代や年齢では区切られないんです。だからこそ、今もイベントやライブに顔を出しに行く。そこから若い世代のアーティストもどんどん出てきているわけだから、「DJ DARUMAと申します」と若いラッパーの子にも挨拶して、直接的なつながりを持つことができるんですよね。 JOMMY 僕も、10代から半径1mくらいの場所から感覚があまり動いていなくて。今はすつかりアラフィフになりますが、この年齢になってくると自然と若者とのコミュニケーションが少なくなりますよね。僕は幸いにもファッションや音楽の仕事をしているので、若者たちとのタッチポイントがある。だから自分自身の気持ちのアップデートにもなるし、彼らからの学びもすごくある。無理してそこにしがみつくという気持ちではなくて、そういうところにアンテナを立ててキャッチしていくことはこれからも継続していきたいなと思っています。この年齢だから…とネガティブに感じることはあまりないですね。 DJ DARUMA クリエイティブに、自分が創造することで仕事が成り立っているということは本当にありがたいことだと思います。その責任の大きさからプレッシャーが強いと感じることはあるけど、人生を賭けた様々なクリエイティブに携われていることに日々感謝しています。それに、結局僕たちはずっとヘッズなんですよ。 JP THE WAVY 俺も変わらずヘッズです。かっこいいと思う若手のラッパーの子がいたら、インスタをフォローして自分からDMすることもあるし。 DJ DARUMA 僕も、今年「RAPSTAR2024」を観て、そこに出ていたラッパーたちのライフスタイルに興味があるので軒並みインスタでフォローしました。 ──今年、JP THE WAVYさんは村上隆さんとのユニットであるMNNK Bro.としての活動もありました。クリエイティビティという面で、これまでと異なる経験もありましたか? JP THE WAVY もともと、京都で開かれた村上さんの個展がきっかけでユニットに発展して行ったんです。「Mononoke Kyoto」は個展のテーマソングとして制作した曲です。村上さんが入れて欲しい言葉を何回もスタジオ録って、修正を重ねながら作って行ったんです。今までの制作とはまったく違う手法でしたね。今作っているユニットの曲も、自分の本編とは違う感じなので、MNNK Bro.としての活動は未知です。毎回、村上さんから「格好つけるのをやめろ」って言われるんですよ。だから、ここからもうちょっと皮を剥いで行かないといけないですね。まだ難しいけど(笑)。 JP THE WAVY 1993年生まれ、神奈川県出身。2017年にMVを公開した「Cho Wavy De Gomenne」がヴァイラル・ヒット。2021年には映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のサウンドトラックに唯一のアジア人として参加。2023年には香港・上海・台湾でのアジアツアーを成功に収め、Rolling Loud Thailand 2023/2024へも2年連続で出演するなど海外での活動も広めている。また現代アーティスト・村上隆とのコラボユニット、MNNK Bro. (Takashi Murakami & JP THE WAVY)としても活動中。「JP THE WAVYの散財“THE”月報」がGQ JAPAN WEBにて好評連載中! DJ DARUMA ヒップホップの魂を持って様々なスタイルのサウンドで全国のダンスフロアを盛り上げたDJ。'00年代後半DJ / プロデュースチーム「DEXPISTOLS」としてエレクトロ・サウンドを武器に音楽のジャンルは勿論、ストリートを中心に様々な壁を取り払い日本のクラブシーンを大きく変化させた。現在はPKCZ®のメンバーとして国内外で活動しながら、LDH JAPANのクリエイティブ・オフィサーとして若いアーティストたちのプロデュースやディレクション、育成を積極的に行っている。 JOMMY 90年代以降のクラブ・ミュージックをリアルタイムに体験し、ハイセンスな音楽性、ファッション、アートの感覚を磨き上げ、多彩なカルチャーに精通し多方面で活動中。 DJ DARUMA & JOMMY(PKCZ®)として、2019年にローンチしたEDGE HOUSEのレジデントを務めるほか、ソロとしてもアンダーグラウンドシーンまで勢力的に活動中。 渡辺志保 音楽ライター。広島市出身。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、エイサップ・ロッキー、ニッキー・ミナージュらへのインタビュー経験もあり、年間100本ほどのインタビューを担当する。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』(NHK出版)など。block.fm「INSIDE OUT」などをはじめラジオMCとしても活躍するほか、ヒップホップ関連のイベント司会やPRなどにも携わる。
写真・菅原麻里 文・渡辺志保 編集・高杉賢太郎(GQ)