「明日から買い物に使ってもいいとさえ思わせられるほど快適」 モータージャーナリストの島崎七生人がマセラティMC20チェロほか5台の輸入車に試乗
外車には人生の幅を広げられる楽しさがある!
モータージャーナリストの島崎七生人さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! アウディQ8スポーツバック 55eトロン、BMW i5 M60 xドライブ、ヒョンデ・コナ、マセラティMC20チェロ 、プジョー408GTハイブリッドに乗った本音とは? 【写真21枚】モータージャーナリストの島崎七生人さんがエンジン大試乗会で乗った5台の注目輸入車の写真を見る ◆人生の幅が広がる 小田和正も聴くし、ビリー・ジョエルも聴く。美味しい味噌汁は日本人にとってご馳走だが、クラムチャウダースープもビシソワーズスープも美味しくいただく。そういうことだと思う。EPC会員の方と話をしていると、複数台数を所有してクルマ趣味を愉しんでおられる方は多く、ガイシャ+国産車の事例も。もちろん皆さんクルマ好きなのはいうまでもなく、2台以上を所有できる環境があるのは恵まれたことであるけれど、それなりの大変さもあるかもしれない。でもたとえそこまでしても複数台数……とくにガイシャにこだわるのは、やはり人生の幅を広げられる楽しさ、醍醐味をご存知だからだと思う。国産車にはない、あるいはひと味もふた味も違うガイシャ各ブランド固有の味わいの体感は格別のもの。そして、開眼というか、それまでは想像もつかなかったブランドを贔屓にしている自分を発見したなら、それもまた刺激的だ。 ◆アウディQ8スポーツバック 55eトロン・クワトロSライン「重厚かつスムーズ」 指で触ると表面がツルンとフラットになった2次元のフォーシルバーリングスが新しい。試乗車はクーペフォルムのスポーツバック(S line)で、たまたまダーク色のボディカラーを纏い、艶やかさよりもシックな雰囲気を醸し出していたが、SUV/クロスオーバーのQ8かつ電動車のe-tronのフラッグシップに位置づけられるモデル。もちろん駆動方式はquattro(4WD)だが、前後に計3基(リア2基)のモーターを備える点が特徴。WLTCの1充電走行距離は501kmとなっている。車検証上2610kg(前:1340kg/後1270kg)となかなかの重量級だが、トータルで300kW/664Nmあり、アクセルを踏み込めば、車重をモノともしない動力性能が実感できる。そればかりか車重を味方につけ、走行モードにかかわらずスムーズで重厚な乗り味は(試乗車のタイヤは265/45R21)サルーン並みのしなやかさをモノにした……とも感じる。今回の試乗ではオーディオの類いはオフの状態で走ったが、モーターをはじめ電装系のメカ音をあえて伝えてくるように感じたのも、技術を売りに するアウディらしい? ◆BMW i5 M60 xドライブ「獰猛と快楽」 BMW5シリーズは同社の中核をなすセダンで、最新モデルは1972年の初代以来、実に8世代目にあたる。5代目(E60)で斬新なスタイルを採り入れたことがあったのを除けば、一貫してクラス相応のオーソドックスで安心感のある仕上がりが持ち味。試乗車はG60のコードネームがつく最新型をベースに仕立てられた電動車のi5 M60 xドライブで、前:後に192kW:250kWの計2つの駆動用モーターをもち、システム・トータルで442kW/795kWNmの性能を発揮。1充電で455km(WLTCモード)の走行を可能にしている。美的センスで語らないほうがいいキドニーグリル(やリアクォーターの野球選手の背番号のような大きな“5”のレリーフ)は見なかったことにして乗り込み、運転してみると、獰猛と快楽の狭間といった、M60を名乗るだけある刺激的な走りが待っていた。まるでエンジンを載せているかのような、速度、状況によりリニアに変化する音の演出が入るのが “Mらしさ感を倍増。電子制御スタビライザー付きのサスペンションは、安定感と快適性の両方を保証している。 ◆ヒョンデ・コナ・ラウンジ2トーン「ファミリーカーとして」 アイオニック5はコンセプチュアルなデザインとEV専用のプラットフォームからなる、実に意欲的なモデルだった。対してコナは同車の2世代目にあたり、ガソリン車やハイブリッドも設定される。2023年10月、日本市場にお目見えしたのはBEVで、全長×全幅×全高=4355×1825×1590mm、ホイールベース2660mと日本の道路環境でもあつかいやすいのがいい。また充電ポートはフロント側に備わるが、普通/急速の2口になる日本仕様ではリッドが幅広く、ヒンジ式では手前の張り出しが大きくなるため、わざわざ専用のリンクにしバンパーと平行移動で開くようにしてある。またウインカー・レバーがステアリング・コラムの右手に備わるのも日本のための設え。 走りは電動車の中ではクセのないごく普通の印象で、加・減速もガソリン車から乗り換えても違和感を覚えないし、パドルで調整が可能な回生ブレーキもクルマの挙動が極端に変わらない味付け。外観から想像するより後席の居住性が高く、ファミリーカーとしての任務もしっかりこなせそう。 ◆マセラティMC20チェロ「普段使いもできる」 おそらく僕と同世代と思われるEPC会員の方とトップを開けたMC20チェロを海沿いの自動車専用道に繰り出し、思わずオジサン2人で「ウワーッ!」と歓声を上げた。聞けばエンジン誌読者らしく、ご自身ではポルシェ・ケイマン等にお乗りとのこと。その氏をして山道に入るなり「ハナの入りがいいですねぇ!」と言わしめたMC20チェロは、やはり紛れもないスーパースポーツカーである。だが、だからといってスパルタンかといえば、決してそんなことはない。時代は違うが、往年のビトルボ系やそれより新しいケン奥山氏のクワトロポルテなどのサルーン系で、もっとヴィヴィッドな振る舞いのクルマはあった。が、MC20チェロときたら、明日から買い物に使ってもいいとさえ思わせられるほど快適で運転しやすく、少なくとも日常領域で気難しさはない。乗り心地も実にコンフォートだ。けれどひとたび右足に力を込めると、2992ccのV6DOHCツインターボは雑味がなく少し渋めの胸のすく快音を発し加速に移る。クーペ+65kgに仕上げられたというカーボン・モノコックボディの剛性も十二分だ。 ◆プジョー408GTハイブリッド「キレ味がいい」 プジョーというと、ここ最近、街中でよく見かけるのは4桁のSUV群(日本市場では2008、3008、5008の3モデル)。世の趨勢はプジョーでも……といったところだ。その一方でもともとの本流だった3桁のモデル群のうち、昨年、車名の数字は踏襲したまま時流に合わせたセダン+クーペ+SUVのクロスオーバールックに一新されたのがこの新型408だ。往年の端正な姿のセダン(406、605など)の愛好家だった方々には気持ちを切り替えていただく必要があるも、クルマそのものの仕上がりは、今のプジョーの理念がキッチリと体現された印象。小径のステアリング越しにメーター(凝った3D表示だ)を見やるi-Cockpitを始め、ロール少なめにスパッと切れるハンドリング、高剛性ボディなど、いずれもスポーティな味わいだ。パワートレインは1598ccの直列4気筒DOHCターボと電気モーター(81kW/320Nm)とで構成されるPHEVで、これもクルマに見合ったキレ味のいいパワーフィールを発揮している。後席の着座姿勢はゆったり、荷室はガソリン車より床が高いが十二分に広い。 文=島崎七生人 (ENGINE2024年4月号)
ENGINE編集部