ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンの作品を読むなら、どの一冊から?
韓国人作家のハン・ガンが、今年のノーベル文学賞を受賞した。韓国の文学界はこれをどう受け止めているのか? 彼女の作品を読むなら、まずはどれから手をつけるべきか? 米紙「ロサンゼルス・タイムズ」が報じた。 韓国でも大人気 村上春樹は作品だけでなく、その「生き方」でも世界のファンを魅了する 2024年、世界最高の文学賞であるノーベル文学賞をハン・ガン(韓江)が受賞することを予想していた人物はほとんどいなかっただろう。 韓国の小説家であるハンは、国際的に権威ある賞をすでに数多く受賞しており、広く読まれている。だが彼女は53歳だ。この賞は伝統的に、キャリアの黄昏時にある作家を優遇するものだ。 文芸評論家であり、ハンの母校である延世大学の元教授、チョン・グァリはこう語る。「最有力候補と目されてきた韓国の作家のほとんどは、70~80代なのです」 「過去のトラウマに立ち向かい、人間の命のもろさを浮き彫りにする強烈な詩的散文」によってスウェーデン・アカデミーから評価されたハンは、123年の歴史を持つノーベル文学賞を受賞した初のアジア人女性だ。そして韓国人としては、2人目のノーベル賞受賞者である。対北朝鮮外交を評価され、2000年に金大中大統領(当時)がノーベル平和賞を受賞した。 ガザとウクライナで戦争がいまだ続いていることを理由に、ハンは彼女の父親が計画した祝賀会を拒否したという。だが国内は「ハン・ガン・シンドローム」で沸き返っている。
「心臓が止まりそうなほど嬉しい」
1970年に光州市で生まれたハンは文学一家の出身で、父親は有名な小説家であるハン・スンウォンだ。 「ハン・ガンはかつて、ハン・スンウォンの娘として知られていました。しかしいまでは、私がハン・ガンの父として知られています」と、彼は2016年のインタビューで語っている。 ハンの小説の多くは、韓国における権威主義支配の長い歴史、そして現在のフェミニズム闘争の両方にまたがる、ありきたりな生活のなかにある暴力を緻密に描写している。 韓国で最もよく知られた彼女の作品のひとつが、1980年に光州市で起こった民主化デモの後、チョン・ドゥファン(全斗煥)軍事独裁政権が市民を虐殺した事件を描いた小説『少年が来る』だ。 この大虐殺に関する人々の議論は長らくのあいだ、韓国の保守派にとって鬱陶しいものだった。彼らは時に政府が及ぼした影響を軽視しようとしたり、抗議デモは北朝鮮の策略によるものだという陰謀論を推し進めたりしてきた。 そして、軍事独裁者の娘であるパク・クネ(朴槿恵)元大統領の保守政権下にあった2014年、ハンはブラックリストに載せられた。イデオロギー的に好ましくないとみなされた他のクリエイターたちとともに、政府からの支援を受けられなくなったのだ。 複数の視点から語られる『少年が来る』は、光州に配備された軍によって射殺された高校生のムン・ジェハクなど、実在の人物からインスピレーションを得ている。 ハンのノーベル賞受賞を受け、ムンの母であるキム・キルジャは「心臓が止まるかと思うほど嬉しかった」と地元メディアのインタビューで語った。「彼女の本によって、事件の真実が世界に広まったのです」