年貢を納めていた江戸時代のお上意識のまま…世界の常識「納税者はお客さま」が日本では根付かない訳
事前通知なしの「税務調査」や「取り立て」……「納税者権利憲章」がないのは日本だけ
納税は憲法で「義務」と定められているが、「権利」は謳われていない。「納税者の権利」をどう捉えればいいのだろう。 「『納税者の権利』とは、納税する私たちが権利を主張することではありません。『権利がしっかり守られること』が重要なんです。 納税者を主役とするアメリカでは、課税庁は納税者を“お客さま”として丁重に扱います。韓国の納税者権利憲章も、納税者を“お客さま”と位置づけている。『納税者が主役』という考え方は、グローバルスタンダードになりつつあるわけです。 ところが日本は逆で、主役は納税者ではなく課税庁。年貢を納めていた江戸時代から明治を経て現代に至っても税金はお上に取られるものというイメージが払拭されず、課税する側もお上意識を引きずっているんです」 1975年にフランスで「税務調査における納税者憲章」が制定されて以降、欧米諸国では納税者の権利を保障する制度の整備が進み、その動きはアジアやアフリカの国々にも及んでいる。 TCフォーラムによると、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で納税者権利憲章や納税者権利保護法がないのは日本だけだという。 「TCフォーラムは納税者権利憲章のあるアメリカやカナダ、フランスに視察に行き、OECDからも権利憲章をつくるべきと勧告を受け、1994年に『納税者権利基本法要綱案』と『税務行政手続法要綱案』を発表しました。30年近く経ちましたが、日本にはいまだ、納税者権利憲章がありません。 なぜ憲章ができないかというと、財務省が納税者の権利を認めたがらない。実際、認めていないから、事前通知なしの税務調査や取り立てが今も行われているわけです」 ◆「罰則規定が非常に強化されています」 TCフォーラムの「税務行政手続法要綱案」発表から17年後の’11年、民主党政権下で「国税通則法」の改正に伴い税務調査手続きが法制化された。しかしこの改正国税通則法は、「納税者の権利利益を保護する規定にはなっていない」と平石さんは指摘する。 「改正国税通則法には、事前通知をしなければならないことが明記されました。でも、事前通知はあくまで“原則”。たとえば逃亡や帳簿を隠す恐れがあるとか、税務署長がそう認めたら、事前通知なしでも調査していいという例外規定ができてしまったんです。 ここ10年ぐらい、罰則規定が非常に強化されています。欧米諸国に逆行し、日本はより締めつけが厳しい方向に進んでいる。私はそう感じています」 日本は先進国の中でも租税負担率が低いにもかかわらず、高負担で知られる北欧諸国よりはるかに国民の痛税感が高いといわれる。税に対する意識、納税者の権利への理解が低いままでいいわけがない。 「日本は所得の低い人ほど税負担、社会保険料負担が大きいです。おかしいと思うことに対して国民が反対の声を上げていかなければ、国の方針も税制も変わらないでしょう。 私たちTCフォーラムは、納税者権利憲章制定の実現を諦めてはいません。税務調査手続きの規定ができても、以前と変わらず事前通知なしに調査が行われている。 課税庁に納税者に対する姿勢から改めてもらうためにも権利憲章は必要で、この秋に再度、国会議員の財政金融委員会や財務金融委員会に憲章の制定を訴えていきたいと考えているところです」 平石共子(ひらいし・きょうこ)税理士。’13年からTCフォーラム事務局長を務める。著書に『小さな会社、個人事業者のための 2019年 消費税改正 早わかりガイド』『〈最新版〉小さな会社と個人事業者の消費税の実務と申告ができる』(共に日本実業出版社) 『○×でわかる!経費で落ちるレシート・領収書」(かんき出版)など。 取材・文:斉藤さゆり
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