NPBのフジテレビ取材パス没収騒動、背景にMLBの日本シフトへの不安感 今こそやるべき…手つかずのリーグビジネス改革
【小林至教授のスポーツ経営学講義】 日本シリーズ(NS)で、日本野球機構(NPB)がフジテレビから取材パスを没収していたことが物議を醸した。背景には、フジがNSの「裏番組」として、ドジャースが出場するワールドシリーズ(WS)のダイジェスト番組を放送したことがある―とささやかれている。 だとしたら、その気持ちはよく分かる。実際、わたしがホークスに在籍していた頃にも、12球団の総意としてMLB偏重の報道や中継をしていると、NHKに抗議したことがあった。NHKの回答は、「プロ野球には国民的娯楽として特段の敬意を表しており、他のスポーツとは比較にならないほど中継数も多く、バックネット裏に連なる私企業の看板についても問題視していない」という趣旨だった。「これはやぶへびになりかねないね」と一同、振り上げた拳をそっと下ろしたのを覚えている。 日本の球界にはMLBに対して、選手もファンもスポンサーも根こそぎ持っていかれるのでは、という不安感がずっと横たわっている。 MLBの日本ビジネスは、大谷効果でかつてない盛り上がりを見せている。レギュラーシーズンで500万人超、WSでは最大2000万人が視聴したとされ、これに伴う放送権料も150億円を超えるとみられている。この国民的娯楽に日系企業のスポンサーが続々と参入し、大谷の年俸分以上の収入をドジャースにもたらした。MLB機構や対戦球団を含めれば、日系スポンサーマネーは200億円を優に超えただろう。 一方、米国内でのMLB人気は頭打ちだ。今回のWSは東西両横綱の激突、大谷を筆頭にスーパースターがそろい踏みというこの上ない好カードだったが、平均視聴者数は1430万人にとどまった。この数字は史上最低の視聴者数を記録した昨年のWSからは50%増だが、最盛期1978年の4428万人からは⅓以下。米プロフットボールNFLのレギュラーシーズン並みの水準で、かつてのような国民的娯楽に戻るのはどうやらムリっぽい。そうなると、午前中にも関わらず米国内を上回る視聴者が熱狂する日本でのビジネス展開が本格化し、NPBはどうなるのかという危惧はよく分かるのである。 むろん、日本におけるMLB人気の高まりは、必ずしもNPBからの利益移転を意味するものではない。今季のNPBの観客動員数が、過去最高となる1試合平均3万1098人(MLBより多い!)に達したのは、各球団の地域密着の経営努力が実を結んだことでもあるが、MLB人気が日本の野球市場を下支えしてきた結果でもある。