「外国人に体を触られたくない」「言葉が通じないのに何がわかる」…頑なだった84歳女性がフィリピン人介護士に心を開いた「意外な理由」
のっぴきならない介護現場
医療介護の現場は人手不足だ。 後期高齢者人口は、約2200万人に膨れ上がる見込みだ。認知症高齢者の数は、2012年の462万人から2025年には675万人、単身高齢者世帯数は2012年の487万世帯から2025年には751万世帯となる厚生労働省の推計もある。 【マンガ】5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からの突然の“お知らせ” ところが介護の担い手がいない。ヘルパーも看護師も足りず、人員確保の出来ない介護事業所は閉鎖もしている。厚生労働省が試算した、2025年度に必要な介護職員数を243万人だが、現状31万人が不足していて、現場はのっぴきならない状況なのだ。 知識人の中には、「介護はいまに、ロボットによってなされるから心配御無用」と話される方がいる。そうなってくれれば本当に有難い話なのだが、その傾向は未だに見えてこない。 そんな中で、私がもう「これしかない」と思っているのが「外国人介護士の導入」である。日本人がダメなら、外国人にお願いするしかないわけで、実際、介護の現場では、中国、ネパール、ベトナム、フィリピンなど海外から来られた方を見かける機会が多くなってきた。
差別的なクレームの嵐
私どもが運営している有料老人ホームでも、現在はフィリピンなどからやってきた女性たちに就業して頂いている。利用者たちからの評判も上々だ。 ただ、ここまでくるのに時間がかかった。問題は彼女たちには無かったが、我々日本人の心の中にあったからだ。 私たちが最初に外国人労働者の雇用したのはコロナ前になる。ジャスミンさんというフィリピン人女性だ。 ジャスミンさんは、フィリピンでは中規模病院の手術室に勤務していた大学卒の元看護師である。フィリピンの看護師は日本よりもずっと裁量権が広く、単純な病気であれば医師同様に診断を行い処方もしてきた。豊富な知識を有し、救急医療のシビアな現場を幾度となく潜り抜けてきた経験がある人物だった。 ところが彼女を雇用して間もなく、要介護者やその家族周辺からクレームが殺到した。 クレームといっても、彼女が仕事上でミスをしたわけではない。外国人だからという漠然とした不安からくるクレームである。 「外国人なんかに自分の体を触られたくない」 「なにを考えているのかわからないから怖い」 「うちの親はぜひ日本人でお願いしたい」 と申し出る家族もいた。 その中でも、ジャスミンさんに特に厳しく接したのが、利用者の春江さん(84歳)だった。 「言葉が通じなくて、私たちの気持ちがわかるの? 外国人を入れるなら、私は他所の施設に移るわ」と捲し立てた。入浴の際などは、ジャスミンさんが担当になると露骨に嫌悪の表情を浮かべるほどだった。我々が何をどう説得を試みても春江さんは嫌がり、ジャスミンさんも辛かったと思う。