「外国人に体を触られたくない」「言葉が通じないのに何がわかる」…頑なだった84歳女性がフィリピン人介護士に心を開いた「意外な理由」
英会話教室まではじまって
ジャスミンさんは、気づけば他の女性利用者のハートも鷲掴みにしていた。近頃、なにやら施設内で高齢女性たちと輪になって机に座り、和気あいあいと喋っているなと思っていたら、即席の英会話教室を始めていたのだ。相手は70代、80代である。教室といっても挨拶程度の会話だが、 「戦後に、まともな英語教育なんてなかったものね」 「80すぎて、まさかこんなところで英会話を学べるなんて」 と、かなり好評だ。 現在は人材派遣会社を通じて、多数の外国人介護者を雇っているが、ジャスミン効果もあいまって、もはや他の外国人介護者への差別はあまり見かけない。毎朝、施設には、介護用ワゴン車に乗って、利用者たちがやってくる。杖や車椅子で施設の玄関に入ると、 「パパ、ヨク、キタナー、イラッシャイ」 「ママ、ゲンキダッタカ?」 とジャスミンさんをはじめとする外国人介護者たちが声をかける。人情深いうえに、文化の違いもあって、勝手にハグで出迎えようとする人も珍しくない。 彼女たちにほだされて、デイサービスを拒否する“お父さん”たちが激減するという“副次効果”もあった。独居や家庭で疎外された存在のお父さんたちには堪らない出迎えだろうなと感じている。 ただ、少し、勘違いをして出入り禁止になった男性利用者も出たため、ジャスミンさんたちには、「日本では異性に対するハグ自体が、誤解を招きかねないから」と、男性への熱烈なハグは自重して貰った。つくば市はバブル期前後にフィリピンパブが乱立し、「リトルバンコク」と呼ばれた時期もあったため、そこで遊んだ経験のある高齢男性は、特に勘違いしやすいのである。
問題は私たちの心の中にある
日本は島国だ。最近まで他国家や他民族との交流が無くとも生活は可能だったと思う。グローバル化が進んだが、日本語しか喋れない日本人はいまだ多い。 私は思う。他国家、他民族とのコミュニケーション不足が偏見をうみだし、差別へと発展している部分はないだろうか。また自分の首を絞めている結果になってはいないだろうか。 日本人利用者たちを愉しそうに出迎え、お世話をしてくれる外国人介護者たちの姿をみていると、そう思う。問題は、彼女たちではなく、我々の心の中にあるのだと。 つづく記事「看取り医が驚いた…! 「ヘルパーに頼ること」を拒む88歳女性を心変わりさせた「意外な日常風景」」もどうぞ
平野 国美(医師)