ファンのNPS+56を達成した 森永製菓 のコミュニティ戦略。ゆるいからこそ深まる顧客の熱量
年間で3万コミュニケーション
DD:会員数が81万人というのはかなりの数字だと思いますが、引き上げる施策は何か行われたのでしょうか。 猪瀬:ナショナルキャンペーンの応募には「エンゼルPLUS」の会員登録をマストにしていますが、それ以外は特に施策は行っていません。キャンペーン終了後に離脱が少ないのも特徴です。 以前に会員数を増やそうと懸賞サイトにリンクしてみたことがあるのですが、森永ファンではない人が増えてしまったことがありました。それ以降は登録者数の増加だけを意識した運営はやめました。現在は会員を対象にしたNPS(顧客ロイヤルティを測る指標)の調査で+56という高いスコアをいただいています。 DD:リアルイベントの「おやつサミット」もかなり人気ですよね。 猪瀬:全国で9カ所、各120人を無料で招待し、お菓子工作やクイズ大会などを行うイベントで、東京開催は倍率が10倍超えになるほど人気です。弊社社員に地元のお土産を買ってきてくださる方や、森永グッズを持ってきてくださる方などもいて、その熱量の高さは他社にない特徴なのではないかと思っています。 我々も会場に出向き、直接お客さまとコミュニケーションさせていただき、いろいろな対話ができるのはやはりリアルイベントの強みです。 リアルな接点が重要なのはいうまでもありませんが、やはりお客さまとの「共創」は目指したいところです。ことしの3月に「アレルギー物質28品目不使用」のお米のアイス「OKOMETO」を発売しました。 こちらは、アレルギーに悩むお子さんを持つ会員の方に座談会に参加していただき、商品化した事例です。「エンゼルPLUS」内では冷菓マーケティング部の担当者が開発の思い、商品の特徴などをブログで発信し、大きな反響がありました。 DD:「エンゼルPLUS」の社内での立ち位置はいかがですか? 猪瀬:昨年10年目を迎えたことやブランドイメージをリフトしたことが評価され、社長賞をいただきました。また、「エンゼルPLUS」のなかでアンケートをとると、インセンティブがなくても1万件近い回答がすぐに集まるため、各ブランドのマーケターにも注目されています。 リアルな声がすぐに入ってくる場があるというのは、社内でも重要なメディアになっています。コミュニティ内のアクティブ率が高くなければ達成できない数字だと思いますので、有用なコミュニティになっていると思います。 またXやInstagramも運用しており、社員やスタッフが一人ひとりに返信する「1 to 1コミュニケーション」も弊社の特徴です。さらにはハッシュタグを追いかけて「これ食べたけどおいしかった」などとつぶやいている人に「ありがとうございます」とコメントする「アクティブコミュニケーション」もはじめました。 こちらは必ずしもファンではないのでネガティブミュニケーションになるケースもまれにありますが、多くは喜んでくださって「フォローします」「商品買います」というコミュニケーションが生まれています。 計算すると年間で3万コミュニケーションくらいになり、一時はAIで対応することも考えましたがやめました。社員にとってはなかなか負荷がかかりますが、意味のある取り組みだと思いますね。 DD:今後の課題はありますか? 猪瀬:森永製菓グループは「2030年にウェルネスカンパニーへ生まれ変わります」と宣言しており、「inゼリー」をメインとした体の健康を提供する商品も、より多くのお客さまの手に取っていただけるよう取り組んでいます。 「エンゼルPLUS」のなかにも「inトーク」「in your health」というコンテンツを用意してトレーナーや栄養士が健康に関する豆知識や、簡単なトレーニングなどをお伝えしたりしています。ただ、会員のほとんどは「お菓子好き」な方なので、こちらのコンテンツを活性化させるのは今後の課題ですね。 健康マーケティング部では「プロギングイベント」をはじめています。プロギングとはゴミ拾いをしながらジョギングをすることで、「エンゼルPLUS」の会員に対しても健康意識を醸成するためにコミュニティ内で発信をはじめています。 DD:お菓子からヘルスケアはなかなか距離がありますね。 猪瀬:私も甘いものが好きでこの会社に入社した経緯があるので、お客さまの気持ちはよくわかります。急に健康志向へと方向転換しても共感は得られないと思うので、こちらでも「ゆるく」はじめているという感じですね。 「エンゼルPLUS」の管理人KAZでもあるマーケティング本部 広告部 松野員人氏(写真左)、猪瀬氏 Written by 島田ゆかり Photo by 三浦晃一
編集部