海外にある美術品…マネーロンダリング対策としてのファミリーオフィス、保税倉庫ビジネスが脚光
相続税対策としての王道といえば土地対策といわれてきました。ですが相続財産のうち土地をもつ割合が年々減りつつあるようです。その分、現預金や有価証券だけでなく、美術品や宝飾品などを持つ人々も増えてきた印象があります。美術品などは輸入消費税の関税分類のなかでもっとも加工度が高いとされ、関税率がゼロであることから、節税策に利用する富裕層もいるようです。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。 【早見表】国民年金・厚生年金「年金受取額」分布…みんな、いくら年金をもらっているのか?
多様化する相続財産、土地の割合が大幅減
国税庁によると相続税の申告実績において令和4年の相続財産の構成比は、現預金34.9%、土地32.3%、有価証券16.3%、家屋5.1%、その他11.4%です。 土地の割合は平成23年は49.2%でした。この十数年で約15%も減少しています。そのかわりに現預金や有価証券などを持つ人の割合が増えてきています。 そして相続財産には、美術品等(絵画や彫刻等の美術品のほか工芸品などが該当)、宝飾品、アンティークコイン、切手等も含まれます。これらについては、被相続人の趣味趣向と重なるものと、相続税の節税対策としての購入、相続財産から隠ぺいする目的のものが想定されます。 このうち、被相続人の趣味趣向の部分は除いて、相続税の節税対策としての美術品等の購入と相続財産から隠ぺいする目的として購入した場合の財産の管理方法ということになります。美術品等を鑑定するテレビ番組で真贋(しんがん)を判定していますが、絵画ではフェルメールの贋作(がんさく)事件が新聞、テレビなどで報道されました。美術館が贋作を購入して、後にそのことが判明したのです。このように、美術品等の分野では、真贋というリスクが常にあります。
収集した美術品等を公益財団法人の美術館に寄付
公益財団法人制度が2006(平成18)年に成立しました。その骨子は(1)準則主義による非営利法人の設立、(2)主務官庁による許可性の廃止、(3)民間有識者の合議制機関による公益認定等に移行、となっています。 公益財団法人は、法人税法上、「公益法人等」として、収益事業に係る部分を除いて課税されません。 相続税の課税では、相続した財産を相続税の申告期限までに公益法人等に寄付した場合は、寄付した財産等が相続税の対象とならない特例があります(措置法70条1項:国などに対して相続財産を贈与した場合、相続税が非課税)。 富裕層である被相続人が生前収集していた美術品等を公益財団法人である美術館に寄付して相続税の課税を免れることは可能です。また美術品等に限らず、自社株を多数所有する被相続人が、その株式を公益財団法人に寄付して相続財産を減らすということも可能です。 次に、この相続税の特例を受けた者が、その公益財団法人を実質的に支配することは可能かどうかという問題があります。仮にそうであるならば、相続税の課税免除の特例と美術品等の実質支配の双方を得ることが可能になります。 しかし、寄付をした者が公益財団法人を親族で支配することはできません。すなわち、公益財団法人の理事の3分の1以上を三等身以内の親族関係者で占めることはできないことになっているからです。結果として、相続税の課税の特例を利用し、かつ、間接的に寄付した公益財団法人の支配をするということはできないようになっています。 美術品等を公益財団法人に寄付して相続税の特例を利用するメリットは、被相続人がその名前を美術館に残すことから、美術品コレクターとしての名声を得ることです。