初対面の女性にいきなりネガティブトーク 愛されたいのになぜか孤独へと突き進んでしまう中年男性を描いた小説(レビュー)
西村亨氏『孤独への道は愛で敷き詰められている』(筑摩書房)は、不器用さと不安定な自己評価のために、自分を追い詰めていく中年男性を描いた小説だ。太宰治賞を受賞した『自分以外全員他人』(筑摩書房)と同じ、マッサージ店で働く柳田という名の中年男が主人公である。生きづらい様子に心が苦しくなるのだが、今作にはユーモラスな表現も多く、適度に緊張が和らぐ。 姉からの紹介でLINEのやり取りをするようになった女性・関根と、初めて会うことになった場面から物語は始まる。最初は笑顔だった彼女だが、いきなりネガティブトーク全開な柳田に、だんだん不機嫌になっていく。その話、今しなくていいよね? とツッコみたくなるような事ばかりをなぜ話すのか? ズバッとダメさを指摘する関根のセリフは、キツいが痛快だ。同時に、正直な姿を見せたいという生真面目さが迷走してしまう柳田に、心が痛むのである。 関根が帰った後、柳田は農作業ヘルパーとして北海道で働いていた期間のことを回想する。2年半に及ぶ同棲生活の末に別れた夕子さんが、新しい恋人と手を繋いでいるのを見てショックを受け、彼女のいる街から逃げるように勤めていた店を辞めた。自然の中で働くことを選んだのだが、もちろんそこは楽園ではない。仕事はキツく、寮の中での立ち位置は難しく、身勝手な同僚や偉そうな雇い主たちに悩まされる。そんな中、素朴な可愛らしさのある同僚・玉絵に好意を抱く。親しくなったものの、奇妙なほど積極的でなぜか会話がかみ合わない玉絵に、柳田は違和感をおぼえるのだが……。 他人を思いやっているつもりの行動が、相手を不快にさせ傷つけてしまう。真面目に働くほど、周囲との関係が悪くなる。素の自分を愛してほしいと切望しているのに、愛されるわけがないと決めつける。そんな袋小路に入ってしまう滑稽さと悲しさを、著者は詳細に描き出す。過去に味わったことのある痛みと、重ね合わせずにいられなかった。今後も目が離せない作家である。