働く母親は「迷惑」か。時短勤務がもたらす不公平感の問題 (桐生由紀 社会保険労務士)
■本当の迷惑は「フルタイム=長時間労働」の文化
このように時短勤務には大きな課題があり、利用者はそれなりの代償を支払っています。それにも関わらず、利用者本人は周囲に対して迷惑をかけていると思いながら働いており、周囲は時短勤務を利用する社員に対して「迷惑だ」と感じているのです。 時短勤務が迷惑になる背景の1つに、これまでの正社員の働き方が「働く母親」を想定していなかったことが挙げられます。 そもそも子供を保育園に迎えに行くには、遅くとも会社を17時には退社する必要があります。しかし、フルタイムの社員が毎日17時に退社できる企業が世の中にどれだけあるでしょうか。 残業が当たり前となっている職場では「早く帰る」こと自体がマイノリティな働き方となり、仕事を肩代わりすることになる同僚達からは迷惑な存在になってしまうのです。 実際、彼らは自分の仕事に加えて時短勤務で働く人の仕事を肩代わりすることで、長時間労働になり精神的にも余裕がなくなっているのです。 しかし、本当の迷惑は「フルタイム=長時間労働」の文化です。 男性は仕事中心で長時間労働が当たり前という文化を変えないままに時短勤務制度が導入され、それにより発生した問題を現場の従業員だけに解決させようとしていること自体が問題なのです。根底にある長時間労働の問題を是正していくことが必要です。 また、フルタイムの条件が長時間労働であるうちは、女性は時短勤務から抜けられずキャリアアップの機会を失い、時短勤務を支える同僚はますます長時間労働になっていき、職場の「迷惑」は大きくなっていきます。 子育てと仕事の両立というと「女性の両立」にばかり目が向きますが、実際は男性が仕事と育児を両立できなければ、女性も本当の両立はできないのです。 企業は、女性の両立にだけ取り組んでいるといつか限界がきます。女性の両立とともに「男性の両立」を真剣に考えなければならないのです。 そのためには、フルタイム=長時間労働の文化を変え、特定の人に負担が偏る仕組みを変えていく改革が求められます。