働く母親は「迷惑」か。時短勤務がもたらす不公平感の問題 (桐生由紀 社会保険労務士)
■時短勤務は男女問わず利用できる
時短勤務制度は「母親である女性が利用する制度」だと思っている人がいますが、要件に当てはまれば男女どちらも利用することができます。 「配偶者が専業主婦だと利用できないのでは?」「父親か母親どちらか一方しか利用できないのでは?」と疑問に思う人もいますが、どちらの場合でも時短勤務を利用することができます。夫婦そろって時短勤務を選ぶこともできるのです。 一方で、会社が3歳以上の時短勤務を許可する定めをしている場合は、夫婦の同時利用を制限することは可能です。育児・介護休業法で時短勤務が義務とされているのは3歳未満までだからです。 ただし、夫婦が同時に時短勤務を取得することで、どちらか一方に家事育児の負担が偏ることを回避できるメリットもあります。「男性は仕事、女性は家事育児」という文化が限界になるなか、企業が多様な働き方を認めることは時代のニーズにも合っています。 会社として従業員が仕事と子育てを両立できる仕組みとして、時短勤務制度の在り方を検討することが大切でしょう。
■夫婦の格差を広げる時短勤務の問題点
前述したとおり、育児のための時短勤務は男女ともに利用できる制度です。 しかし、厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」を見ると、時短勤務の利用者がいる企業のうち利用者が女性のみの企業が94.4%、男性の利用者もいる企業は5.6%となっており、男性はほとんど時短勤務を利用していないのです。 時短勤務の利用が女性に極端に偏ることによって、制度を利用する女性に大きなデメリットが発生します。「収入の大幅な減少」と「キャリアへの影響」です。 ・収入が大幅減 1つ目は収入の減少です。 育児・介護休業法では時短勤務の導入を義務付けていますが、短縮した時間についての賃金の支払いは義務付けていません。そのため、通常は短縮された時間分の賃金は減額になります。 例えば8時間勤務の時に30万円の基本給だった人が6時間勤務の時短になると、「8分の6掛け」を基準に基本給を決定し22万5千円になります。 注意しなければならないのは、固定残業代を導入している企業です。一般的には時短勤務者には固定残業代を支払わない企業が多いため、固定残業代がすべて不支給となり、元の給与の半分近くまで減ってしまうこともあるのです。 例えば、これまで基本給と45時間分の固定残業代で年収600万円だった人が6時間の時短勤務になった場合、固定残業代がなくなり、基本給が8分の6になるため年収は330万ほどまで下がる計算になります。 このようにたった2時間の時短のはずが、収入が半減してしまうケースもあるのです。 ・キャリアへの影響 もう1つは「マミートラック」といわれる問題です。 時短勤務を選択したことによって補佐的な仕事が割り当てられるなど、意図せずキャリアアップの道が閉ざされてしまうケースです。「簡単な仕事で負担がかからない方がいいだろう」「キャリアアップより家庭を優先すべきだろう」という配慮から本人が望むか否かに関わらずマミートラックに向かっていく事例も多いのです。 また、時短勤務が家庭優先の働き方だという無意識の思い込みから、夫婦間でも時短勤務=家事育児担当という役割分担が成立してしまい、時短勤務を利用している側が常に子供の世話をするという役割の固定化の問題も生じます。 一見、仕事と家庭を両立できると思われる時短勤務は、家庭優先の働き方として男女の役割分担を強化し、女性の家事負担が増え、キャリアアップの機会を失い、夫婦間の賃金格差を広げるという大きな課題が存在しているのです。