五社巴×深作健太 五社英雄と深作欣二、破天荒な映画監督を父に持ち。「父の彫り物には腰を抜かすほど驚きました」「自分のお金では絶対に映画を撮るな、と言われ」
◆父親の作品で一番好きなのは…… 深作 自分が年を取ってなおさら、「親父だったらこうするよなあ」という選択肢が自分の中にあるんです。絶えず意識しているし、追いかける存在。だけど、やっぱり親父と俺は違うことも、思い知らされています。 五社 私と父の性格は全然似てないと思っていましたけど、最近気づいたことがあって。父が仕事を決める時は命がけで説得したと聞くんですが、私も今携わっている警察監修の仕事で、警視庁の刑事さんをうちの会社に誘う時、同じように時間をかけてしつこく口説いてる(笑)。ところで、健太さんがお父さんの作品で一番好きなのは? 深作 『仁義の墓場』(75年)ですね。『仁義なき戦い』を京都で撮った後、そのヒットを受けて大泉の東映東京撮影所で仲間たちと作った作品。渡哲也さん主演で、ヤクザの型破りで破滅的な生きざまを描いた作品です。親父の人生観とか映画屋の人生がきちんと描かれていたなあと思って。 五社 私は『陽暉楼』がとても好きです。土佐の料亭・陽暉楼を舞台にした、緒形拳さん演じる主人公の女衒と、娘の芸妓・池上季実子さんの愛憎劇です。最終的には緒形さんが復讐を果たした後、殺されるんですけど、彼を駅で待つ愛人の浅野温子さんに駅員が「もう終電は終わったで」と声をかけるシーンがあるのね。 それに対して、目に涙をいっぱいにためた浅野さんが、「レールがあるから汽車は来る。汽車が来るなら……なんちゃあないき」と言うんです。このシーンが大好きで、どう生きていこうか悩んだ時、自分を励ますために何回も見ました。
深作 親父たちの時代は、1カット見ただけでどの監督の作品か明確にわかりましたけど、今の映画はそうした記名性が許されなくなり、淋しく感じますね。 五社 濡れ場を撮るにもコンプライアンスが厳しく求められる時代ですしね。 深作 煙草もダメ、シートベルトも必ずしなきゃ、とかね。だからこそ、読者のみなさんにはそうした縛りのない時代の、親父の映画監督デビュー作『風来坊探偵』(61年)はぜひ見てもらいたい。千葉真一さんが主演のアクション・サスペンス・ミステリ映画です。 五社 私は父の意識が変わってから撮った『鬼龍院~』ですね。そして、父が生きていたら『ゴッドファーザー』みたいな家族劇を撮ってほしかった。 深作 僕は親父に当時の仲間たちとヤクザ映画を撮ってほしかったんですけど、結局最後は、藤原竜也君ら若い世代と仕事をすることを望んだ。それで親父の遺作は、僕の監督デビュー作でもある『バトル・ロワイアル II 鎮魂歌』(2003年)になったわけです。 五社 父も深作さんも、映画監督としてたくさんの方に名前を覚えてもらえてよかったけれど、運命はどう転ぶか本当にわからないとつくづく思います。 深作 一寸先は闇ですよ。(笑) 五社 ホント、そう。でも、『陽暉楼』の台詞じゃないけれど、「レールがある限り汽車は来る。何とかなる!」です。 (構成=大西展子、撮影=大河内禎)
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