低所得家庭の子ども約3人に1人が体験ゼロ…「体験格差」という深刻な問題を解決するのに必要なこと
「体験格差」解消を目指す理由
なぜ私は「体験格差」の解消に取り組むのか。原点は、学生時代に遡る。 学生時代にボランティア活動をしていたNPO法人ブレーンヒューマニティーの当時の代表の紹介で、とあるキャンプにスタッフとして参加した。そのキャンプは、ある施設で行われ、不登校や引きこもりなどの状態にある青年期の若者が数週間にわたり共同生活をするというものだった。 そこで出会った若者の一人は、参加した初日の頃は、喜怒哀楽などの表情がまったく見えなかった。運営に関わる職員さんに話を聞くと、「彼は、幼い頃から不登校状態で、長きにわたり人や社会とのつながりを持てなかったんだよ」と言う。 参加者の中には、学校や職場、家庭などの人間関係につまずき深い傷を負っていたり、発達障害や疾患などを抱えている人もいた。 個別の状況は異なるが、いずれも本人だけの力ではどうすることもできない事情によって、人や社会とのつながりを断たれてしまっていた。そんな若者たちが「今の状況を変えたい」という思いで、勇気を振り絞って参加していたのが、そのキャンプだったのだ。
自己肯定感を得ていく若者たち
普段は昼夜逆転状態にある参加者もいたが、共同生活では、早朝に起きて、一緒に朝食と昼食のお弁当をつくる。そして、朝から出向き、地域の福祉施設や、NPOでボランティアとして働く。 夜の振り返りの時間では、「施設の利用者さんからこんな声をかけてもらい嬉しかった」といった具合で、一人ひとりがその日に「体験」したことを参加者同士で話し合う。 働くこと。地域の様々な人と出会うこと。人と共同で生活すること。一緒に料理をしたり食事をとったりすること。自然の中で過ごすこと。 参加者たちは、キャンプでの様々な「体験」を通じて湧き起こった自分の感情を他者に受け止めてもらうことで、ありのままの自分を肯定する感覚を得て、少しずつ自信を取り戻していったようにも見えた。表情がなかった彼も、時間の経過とともに、だんだん表情が見えてくるようになった。キャンプ後にアルバイトを始めた若者もいたようだ。 当時の自分はスタッフとして力不足で、失敗もたくさんした。しかし、そこで「体験」には、人が本来持っているその人らしさと可能性を引き出す力があることを学んだ。何歳になってからでも、「体験」を一つひとつ積み重ねることでそれは可能だと今も信じている。 困難を抱える青年期の若者たちの姿をこの目で見てきたからこそ、私は子ども時代の「体験格差」をなくし、子どもや若者が生きやすい社会をつくりたいと思っている。