ガザ戦争が引き起こすローカル非国家勢力の反米行動: 親イラン「抵抗の枢軸」諸勢力の立場はさまざま
挑発はむしろイスラエルから?
その一方で、イランはといえば、そうしたローカルな同盟勢力の行動に引きずられてイスラエルおよび米国から直接攻撃を受けることは絶対回避したい、との姿勢がはっきりしている。シリアやイラクでの活動拠点が攻撃されるたび、イラン政府高官が「黙っていない」と報復の意志を示している一方で、2月1日には革命防衛隊幹部のシリア派遣縮小を決定している。むしろ、ヒズブッラーや革命防衛隊のシリア拠点を攻撃し、挑発しているのはイスラエルだ。ガザでの戦闘に落としどころが見えない中、その非人道性に批判が高まっていることの矛先をイランと「抵抗の枢軸」に向けようとしているものと思われる。 現在は、域内の諸国家主体のいずれもが、いかにして事態をエスカレートさせないか、自国の国益に差しさわりが出ないように行動するかに専念する一方で、非国家主体がイスラエルに対する反感の高まりを利用して自勢力の地歩拡大のための不規則行動を頻発させる機会が増えている。過去の戦争を見ても、国家主体の自制の一方で、ローカルな緊張状態から予想もつかない戦端が開かれるケースは少なくない。そのリスクの高まりを抑えるためには、非国家主体にこうした契機を提供しているガザ戦争を、一刻も早く終結させるしか手はない。
【Profile】
酒井 啓子 千葉大学法政経学部教授、同大学グローバル関係融合研究センター長。専門は中東政治、イラク地域研究。東京大学教養学部卒。地域研究博士(京都大学)。アジア経済研究所研究員、在イラク日本大使館専門調査員、東京外国語大学教授などを経て2012年から現職。