『グラディエーター』気高き剣闘士の物語はいかにして生まれたのか
マキシマスを作り上げたラッセル・クロウ
『グラディエーター』のプロジェクトはマキシマス役を想定していたメル・ギブソンを射止めることができず、別のオーストラリア俳優であるラッセル・クロウに脚本が送られた。 クロウの演技メソッドは即時性があって活気に満ち、それを好解釈するならば野性的といえた。直近においても警察スリラー『L.A.コンフィデンシャル』(97)で、横暴だが不正を許さぬ正義漢バド・ホワイト巡査を演じ、強烈なインパクトを残したばかりだった。 そんな彼のもとに脚本が届いたとき、クロウはマイケル・マン監督の内部告発サスペンス『インサイダー』(99)の撮影現場に身を置いていた。そのためドリームワークスからのオファーを断るつもりだったが、他ならぬマイケル・マンがそれを止めた。「リドリーは、この業界でも最も優れたビジュアリストの一人だ。依頼を受けなさい」と。 『グラディエーター』に参加したクロウはマキシマスのキャラクター像を自身で肉付けし、作品の意味を解明することに対して積極的になった。マルクス・アウレリウスの著作を読み、戦闘前にマキシマスが発する「力と名誉」のフレーズや、戦いに備えて手を土で磨く儀式のようなクセ、そして「私の名はマクシムス・デシムス・メリディウスだ」というセリフで、マキシマスに敬称を与えたのはクロウだった。 スコットはクロウのマキシマスに対し、コモドゥス役にホアキン・フェニックスを選んだ。ホアキンは宣教師の両親のもとに生まれ、早逝したリヴァー・フェニックスを兄に持ち、優秀な俳優の血を共有している。『誘う女』(95)ではニコール・キッドマン演じるTVキャスターに嘱託殺人を持ちかけられるティーンに扮して好評を博し、そんな浮遊した存在感を『グラディエーター』のような壮大な世界にマッチさせることに成功している。 「ホアキンにとって、それはまったく新しい舞台だったと思う。しかし彼の才能は、自分の不安を材料として動けることだ」(リドリー・スコット)