「障害者福祉のドン」めぐるセクハラ訴訟判決 女性の被害認め賠償命令
社会福祉法人グロー(滋賀県近江八幡市)で代表を務めるなど、「社会福祉業界の実力者」として知られた北岡賢剛氏からセクシュアルハラスメントと性暴力を受けたとして、女性2人が北岡氏と同法人を訴えた民事訴訟(※)の判決が10月24日に東京地裁で言い渡された。野口宣大裁判長は北岡氏に対し、原告の木村倫さん(仮名)に220万円を、グローに対し、原告の鈴木朝子さん(同)に440万円を支払うよう命じた。 木村さんはグローと共同で障害者の芸術文化推進事業を行なう社会福祉法人愛成会(東京都中野区)に2003年入社。北岡氏によるセクハラやパワハラは次第にエスカレートし、12年9月には酩酊した木村さんを北岡氏が宿泊していたホテルに連れ込んで服を脱がすなどしたことがあった。この後、北岡氏は木村さんと関係を持ったような話を言いふらしたという。 鈴木さんは12年にグローに入社。14年11月と15年6月にホテルで強制わいせつにあたる被害があった。鈴木さんはこの後、19年に退職している。 2人は20年11月に計4200万円の損害賠償を求めて北岡氏とグローを提訴した(その後、請求額を計約5200万円に増額)。 判決は、北岡氏による木村さん、鈴木さんへのハラスメントや性暴力をほぼ認定した。木村さんについては遅くとも12年以降、約7年もの長期間にわたる行為が「一連一体の行為として、継続的な不法行為に当たる」と認定。北岡氏に損害賠償の支払いを命じた。 鈴木さんについては性暴力にあたる行為を事実認定したものの、消滅時効の3年を過ぎていることから、請求には理由がないと判断。一方、グローの安全配慮義務違反を認め、行為の性的侵襲度や精神的苦痛を考慮のうえ損害賠償の支払いを命じた。
いまだ被告の「謝罪」なし
判決後に行なわれた記者会見で、原告代理人の笹本潤弁護士は「長期間にわたるセクハラを『いずれも北岡氏が木村さんに対して性的欲求を実現させるために行なった一連の行為』だと認めてくれた。鈴木さんについては3年の消滅時効があるとされ北岡氏に対する訴えは認められなかったが(被害の事実認定がなされたことで)グローの安全配慮義務違反は全面的に認められた」と判決を評価した。代理人の角田由紀子弁護士も判決を評価した一方、損害賠償額については「不十分」と話した。 木村さんは被害が認められた点については安堵の思いを語ったが「ずっと謝ってほしいと思っているが、残念ながら(北岡氏から)謝罪の言葉は一度も聞かれなかった」として「今日の判決を受けて謝っていただきたいと思います」と話した。 鈴木さんは「消滅時効については納得できません」としたものの、「性暴力については事実認定された。安堵して涙が出ました」と、被害を信じてもらえないのではないかという恐怖があったことを明かした。 北岡氏は本人尋問などで、木村さんとの行為には同意があった、鈴木さんとはそのような行為をする関係があった、などと反論していた。これは訴訟が始まってから3年が過ぎて初めて行なわれた主張であり、その不自然さを原告側は指摘していた。判決でも北岡氏のこれらの主張は「信用することはできない」と判断された。 こうした北岡氏の弁明について木村さんは「人を人として見ていないというか、こんなふうにやり込められたのかという悔しさがありました」、鈴木さんは「(本人尋問まで)一度もしていなかったストーリーを展開したので、逃げることしか考えていないのだなと思いました」と怒りを滲ませた。 原告らが訴えた性暴力やハラスメントは、卑猥な声かけ、メール、タクシーの中で体を触る、手を握る、セクハラの隠蔽工作をするなど計130。これらを精査する時間を要したこともあり、提訴から判決まで4年もの長い裁判となった。原告側では損害賠償額や消滅時効などについて控訴するかは検討中だという。
小川たまか・ライター