日本一貧乏な観光列車、駅舎になる
駅舎をながまれ号にしたい! 随所にこだわり
沿線旅客駅12駅の駅舎すべてを道南いさりび鉄道株式会社が保有しているわけではない。JRと共同使用の五稜郭駅の駅舎はJRが保有のほか、沿線自治体保有のケースが2駅、中には駅舎と郵便局が一体で、元郵便局長の個人所有である渡島当別(おしまとうべつ)駅のような珍しい駅もある。
北斗市役所の最寄り駅である清川口駅は、1956年10月1日に開業、1979年に現駅舎へと改築された北斗市保有の駅だ。開業60年を超え、市は傷んできた屋根と外壁の改修を決定した。改修工事の経緯を市役所で担当者に聞いた。
以前の駅舎は、白壁に赤い屋根。当初は傷んできた外壁と屋根のみを補修、同じ色で再塗装する予定だった。しかし、ながまれ号が沿線で愛されていることから「塗り替えるなら、ながまれ号と同じ色にしたいね、と市役所の若い人たちが話していたんです」。他人ごとのようにいう脇さんに「具体的には誰が?」と尋ねると、控えめに「主には私です」と答えが返ってきた。
道南いさりび鉄道の車両は、ながまれ号以外に、四季を表した4色の車両もあり、それらの車両にも、ながまれ号と同様に、函館山の稜線が描かれている。
「白無地の駅舎の壁に、この稜線ラインを足せないだろうか?」と脇さんが口にすると、工事業者から「下地の色を濃紺にすれば、ながまれ号のような塗装ができるかもしれない」と、思いがけない反応が出た。かなうはずがないと思っていた願いが実現に向け動きだした。そこで道南いさりび鉄道にも相談してみたところ、快諾。
そうして三者でイメージを相談しながら、今年9月に完成した新駅舎は、「第三のながまれ号」とすら呼べそうな出来栄えとなった。「ながまれ」の文字や「清川口駅」の文字は、ベタ塗りではなく、アクリル板にカッティングシートを貼って立体的に表現するなど、随所にこだわりが盛り込まれている。
駅で利用者に聞いた。清川口駅から最寄りの上磯高校に通う高校生は「みんなで、前よりよくなったねと話しています」と反応は上々。中には「前より濃い色だから、夜はすこし怖そう」と心配する人もいたが、実はこの駅舎、夕方、暗くなり始めると、柱が光る。